田代直希が、2年ぶりに沖縄に帰ってくる。
9月7日(月)、プレシーズンゲーム「ISLAND GAMES 2026」琉球ゴールデンキングス vs 千葉ジェッツが沖縄サントリーアリーナで行われる。何度も名勝負を繰り広げてきた琉球と千葉Jが、プレシーズンゲームで早くも対戦する。千葉ジェッツの田代直希にとって、2024年オフに琉球から千葉Jに移籍して以来、約2年ぶりの沖縄でのプレーとなる。
プロキャリアをスタートした沖縄から、出身地である千葉へ移籍した2年間。千葉そして沖縄のファンへの思い。「わざわざ堅苦しいインタビューなんかしなくてもいいじゃん(笑)」と軽口を言いつつ、いつもの和やかな雰囲気の中、田代直希の感じた2年間を振り返ってもらった。(取材日:2026年8月24日、写真は2025-26シーズン)

60試合を戦い抜くコンディションこそが重要
——まず昨季の振り返りから伺います。チームとしては苦しい時期もあったシーズンでしたが、プレーオフ(CS)に進出し、ホームで群馬を破ってセミファイナルに進出しました。
田代: CSをホームで開催するという最低限の目標は達成できましたが、それ以外の目標が達成できませんでした。セミファイナルをLaLa arena TOKYO-BAYで開催するという目標も、東地区1位で通過するという目標も達成できず、結果だけを見ると反省点の多いシーズンになってしまいました。
怪我人も多く出てしまい、主力がシーズンアウトしたりと、僕たちにとって非常に苦しいシーズンでした。本当にCS出場を逃してもおかしくない位置まで沈んだのですが、そこからなんとか上がってセミファイナルまで行けたのは、チーム力の高さや結束があったからです。結果は望んだものではなかったですが、戦う姿勢や結束力は評価に値するのではないかと思います。

——怪我人が多くベストメンバーで戦えなかった苦しいシーズンの中で、田代選手はレギュラーシーズンで58試合に出場しました。チームの苦しい状況を、試合に出場することでしっかり支えたという点について、ご自身のコンディションも含めてどのように感じていますか?
田代: 無理して出場しようと思えば全試合出場できたのですが、長いシーズンを戦う上で「今無理するよりは」という判断での欠場が2回ありました。自分的には60試合戦い抜くコンディションをキープできなかったので、もう少しコンディショニングを維持する、高めるというより維持するという部分を高めないといけないと感じました。50試合くらいは結構ギリギリの状態で試合をしていたので、そこを休んでいたら10試合は欠場していたと思います。
60試合を元気で良いコンディションの状態で戦い抜くことが重要だと思うので、痛めながらやコンディションが良くない中で試合に出場し、パフォーマンスがさほど高くない状態が結構あったため、そこをどれだけ良い状態に持っていけるかが今シーズンの課題です。

『取り組む姿勢』を一定に保つことが一番難しい
——チームが苦しんでいる時にこそ、田代選手のリーダーシップや声出し、雰囲気でチームを盛り上げるところが外から見ていると重要な要素だったように思います。チームが苦しい時、どのような声かけや姿勢を意識されていましたか?
田代: 声出しのところは、ジェッツには経験豊富な選手が多く、日本代表選手もたくさんいて、僕が経験してきた以上のものを経験してきた選手たちが当たり前に頑張ってくれていたので、僕から何か声をかけることはさほどありませんでした。
どちらかというと、僕はコーチに求められているスタンダードをどんどん上げていく作業と、それをどれだけ長い間パフォーマンスするかという2点に絞っていました。そういった姿勢はコーチにも評価してもらえていたと思います。苦しい時も良い時も関わらず、自分のパフォーマンスや取り組む姿勢を一定に保つことが一番難しいところだと思うので、そこにチャレンジできたこと、評価してもらえたことは自分にとって大きな経験になったと思います。

「なんで俺が隆一にマッチアップしてんだろう(笑)」
——キングスとの対戦についても振り返りたいと思います。昨シーズンの1月にLaLa arenaでキングスと対戦しました。移籍1年目はプレータイムがそれほど長くありませんでしたが、昨季はプレータイムを確保し主力として対戦しました。この2試合を振り返ってみて、どのような心境でしたか?
田代: 2年連続でキングス戦はコンディションが良くなく、その前に天皇杯などで少し怪我をしていて、プレータイム制限があるような状態でした。自分的には不本意な感じでしたが、初めての移籍で初めてキングスと対戦する1年目の方が個人的なインパクトは大きかったです。
2年目の昨シーズンは自分自身が慣れているというか、怪我をしながら岸本隆一にマッチアップしなければいけない罰ゲームみたいな状況だったので、そちらに集中せざるを得ませんでした。なので1年目より印象は薄くなっていますが、脅威なチームであることは間違いないと再確認させられた試合でした。2年目は時間が自分の中の「沖縄」という色を徐々に薄めていったような感覚で、キングスというよりジェッツの一員としてキングスを迎えられた感覚が強いです。

——実際に岸本隆一選手とマッチアップして対峙した際、コート上で何か言葉を交わしたりしましたか?
田代: コート上で特に喋ったことはないですが、隆一とマッチアップする時間も結構あったので、その時間は自分的にテンションが上がりましたね。彼の癖やどういうプレーをするのかは分かっていたので、「今仕掛けてくる。今はこないな」といった駆け引きをすごく楽しんでいました。学生時代を含めて、僕のキャリアの中で一番長く一緒にプレーした選手が隆一なので、苦楽を共にしてきた仲間として感慨深いような。でも「なんで俺が隆一にマッチアップしてんだろう(笑)」と少し複雑な気持ちでした。

プレーオフホーム開催の意義と、スターター出場の責任感
——シーズン後半、特にプレーオフについて伺います。ジェッツのホームでCSを開催できたことに関して、ご自身やチームとしてどのような意義があったと感じていますか?
田代: 沖縄時代は基本的にCSをホームでやっていたので、自分の中に「ホームでやるのがCSだ」という固定観念がありました。2年前にアウェーで戦うCSがこんなにも辛いものなのかと思い知ったので、CSをホームでやることが優勝への絶対条件だと思っていましたし、まずは最低条件をクリアできたのは良かったです。
何よりCSはプレーしていても楽しいし、見ていても楽しいので、それを地元のファンやジェッツファンに届けるのも僕たちの仕事です。ビジネス的にも重要ですし、どのチームもホームでCSを開催したい中、わずか4チームしかできないことなので、1試合でも長くファンの方にCSの一進一退の攻防戦や、殺気立った応援の雰囲気を感じてほしいと、より使命感を感じました。
——昨シーズンの終盤からCSにかけて、全試合スターターとして出場しました。大事なCSのホームゲームにスターターとして出場することに、責任感は感じましたか?
田代: チーム状況として、怪我を抱えている選手が何人もいて、僕らがスタートにならざるを得ない状況だったのですが、スターターに選ばれるというのはやはり責任重大です。ただ気負いすぎず、今まで何度もCSを戦ってきて、どんなメンタリティで戦うのか、立ち振る舞うのかを意外と分かっていたので、冷静に戦うことができました。経験しておいて良かったなという感じで、意外と緊張感もなく落ち着いていました。

田代直希が考える『千葉ジェッツのアイデンティティ』
——時間を少し巻き戻して、ジェッツに移籍しての2年間について伺います。プロキャリアで初めて違うチーム(ジェッツ)に移籍した当時の心境はいかがでしたか?
田代: 何もかもが全く違うチームに来たなという感じでした。一番感じたのは、キングスとジェッツは全く同じ価値観ではなく、北極と南極くらい離れたチームなのに、その2チームがBリーグを引っ張って優勝争いをしていたということです。自分の中での勝ち方や組織のあり方の概念を良い意味でぶっ壊してくれたのが千葉ジェッツでした。
バスケットや組織の多様性など、1つの概念に囚われていた自分の器を大きくしてくれた感覚です。全く違う2チームが優勝争いをしていて、その2チームを渡り歩けたのはかなりの幸運だと感じています。ファンの熱さは共通していますが、組織の考え方が全く違う方向を向いていることはかなり大きな勉強になりました。
——その点をもう少し掘り下げたいのですが、田代選手が考える千葉ジェッツのアイデンティティやカルチャーの違いについて、どのように感じていますか?
田代: バスケットをやる瞬間だけみんながスイッチを入れて集中し、組織力やチーム力を高めていく作業に集中するチームです。意見を言い合ったり、時に衝突したりということが平気で行われます。僕がいた頃のキングスは大人な選手が多く、誰かが道を作っていくのを待つ姿勢というか、皆の顔を見ながら石橋を叩いて渡るようなチームでした。一方ジェッツは真ん中を突っ走っていくような突進力があり、衝突しながら答えを導き出そうとする姿勢がすごいなと印象的でした。どちらが良い悪いではなく、全く違う価値観です。

——カルチャーやアイデンティティが違うチームに入り、今のジェッツでの立ち位置を作っていく上で、試行錯誤や苦労があったと思います。どのようにチームに溶け込んでいったのでしょうか?
田代: 何も考えずに流れるように生きていたらこうなってしまった状態です(笑)。でも、チームの価値観の違いがすごく面白いなと思っていました。沖縄でプレーしていた頃は「こうあるべきだ、そうすれば勝てる」と思い込んで固定観念に固められていた人間だったので、千葉でそれをどこまでぶっ壊せるんだろうと感じていて、アホなことをしてみたりしていました。そうやって色々な人と人体実験のように接しながらやっていたら、今では崇め奉られる仏様みたいな立ち位置になってしまいました。それは冗談ですが、いろんな人が年齢関係なく親しみやすく接してくれて、「そこらへんにいそうな兄ちゃん感」というか、親密感を出せたのはブランディング的に良かったのかなと思っています。

地元でプレーしたいと思ったきっかけは、沖縄の選手たち
——地元(千葉)でプレーすることの意義や心境について伺います。地元でより近い選手としてプレーすることについてどのように感じていますか?
田代: 地元でプレーしたいと思ったきっかけは沖縄にあります。沖縄で隆一や(並里)成のような地元の選手が県民からどう見られているのかをずっと見てきたので、自分も地元でプレーしてみたいという気持ちが芽生えました。
僕は常に世代の先頭を走ってきたスーパースターではなく、県大会にも出られないような普通の選手でしたが、自分が成長できる場所を模索してここまで辿り着きました。スーパースターだけがプロになるわけではなく、「僕みたいな選手もプロになっている」ということを地元の子たちに分かってほしくて、誰にでもチャンスがあるということを伝えたいです。決して華のある選手ではないですが、「こういうプロの在り方もあるんだ」という良い教材になればいいなという思いでプレーしています。

——9月にプレシーズンゲームで初めて沖縄アリーナでキングスと対戦しますが、率直に今どのような心境でしょうか?
田代: 楽しみですね。沖縄で過ごした時間が自分にとってすごく大きな時間で、あの時間がなければ今のような充足感に溢れたキャリアを送れているとは思えません。沖縄にはすごく感謝しているので、良いパフォーマンスをして「嫌だな」と思わせるのが一つの恩返しだと思っています。
——ファンの方々も、田代選手がジェッツのユニフォームを着て沖縄サントリーアリーナに立つ姿を楽しみにしていると思います。ファンにどんなところを見せたいですか?また、プレシーズンゲームとレギュラーシーズンでの違いは感じますか?
田代: 今のバスケットボール観や個人的な思想は沖縄で培ったものが多いので、沖縄でやってきたことと今やっていることは大きく変わっていません。それを同じようにパフォーマンスできたらいいなと思っています。良い意味でも悪い意味でも「あいつ変わんねえな」と思ってもらえたら大満足です。プレシーズンについては、お互いにヘッドコーチが代わり模索段階なので、戦術やスカウティングをどこまで遂行するかよりは、色々なものを試す機会が多くなると思います。レギュラーシーズンほど考えながらバスケをすることは少ないと思うので、今できる自分のパフォーマンスを発揮することに気持ちが向いていますし、色々と小賢しいことをしようかなと思っています(笑)
オフコートでの沖縄との関わりと岸本選手の移籍について
—— 移籍後、オフコートでの沖縄との関わりはどのような感じでしょうか?
田代: 個人ファンクラブを運営していて、継続して応援してくれている沖縄の方々がいるので、オフシーズンにファンクラブイベントを行うために沖縄へ足を運んでいます。沖縄にいた時は「仕事」がちらつく感覚で生活していましたが、今は完全な旅行として、また違った沖縄を楽しめていてすごく新鮮です。
—— 隆一選手と非常に長くプレーしたというところで、移籍した先輩として少なからず影響もあったかと思います。バスケット界を揺るがした岸本選手の移籍について、個人的にはどのように受け止めましたか?
田代: 本当に意外でした。隆一の性格的にすごく気遣いをする人で、周りを見るタイプで波風を立てたくない性格なので、そんな彼がこの決断をしたというのは、強い思いを抱えてのことだったのだろうと推測できます。そばで見ていて、プレッシャーや期待が彼の小さい身長にのしかかっていたので、そういった辛さもあったのだろうと推測しています。岸本隆一というバスケットボール選手は、多くの人々を魅了できる選手なので、バスケットを楽しんで京都を盛り上げてくれるはずです。彼が出した決断はすごく良かったのではないかと思います。また違うキングスが見られると思うし、新たなヒーローが現れると思うのでさほど心配はしていません。そこで出てくるのが小野寺(祥太)だと踏んでいます(笑)。

Bプレミアに向けた今シーズンの意気込み
——最後に今季の意気込みをお願いします。Bプレミア初代王者をどのチームも狙っていると思いますが、千葉ジェッツとして、また田代選手個人としてどのように狙っていきますか?
田代: Bプレミアが未知数すぎてどういうリーグになるのか想像できていないので、1戦1戦目の前の試合を戦っていくしかないという感じです。周りのチームも大きく変えてきているので、どういうプランで戦ってくるのか分からない状態です。千葉ジェッツとしては毎年タイトルを取ってきて、ここ2年くらいタイトルが取れていないという贅沢な悩みを抱えていますが、初代王者は絶対に獲りたいです。チームが新しくなりどうなるか分からない状態なので、一人一人が良いチームにしていく作業やチームビルディングを手を抜かずにやるべきだと感じていますし、今のヘッドコーチもそういう思想です。部活動っぽくみんなで手を取り合い、声を出し合いながら頑張っていこうとしていて、チームに変わっていく節目だと感じているので、それを楽しみながら1試合1試合勝ちを重ねていきたいです。優勝は目指しますが、足元をしっかり見つめながらシーズンを歩んでいけたらと考えています。
(取材:金谷康平、写真・文:湧川太陽)


