「何かの巡り合わせなのかと思う部分もあります」
衝撃的な結末を迎えた日環アリーナ栃木のバックヤードで、今村佳太はかつての自らの言葉を噛み締めながらそう答えた。
「りそなグループ B.LEAGUE CHAMPIONSHIP 2025-26」宇都宮ブレックス vs 名古屋ダイヤモンドドルフィンズ GAME2は、今村佳太の今季ハイ23得点 3ポイント7本中5本成功というハイパフォーマスもあり、75-66でアウェーの名古屋Dが勝利。2連勝で東地区優勝の宇都宮をアップセットしてセミファイナル進出を決めた。

名古屋Dの勝利により、CSセミファイナルの対戦カードのひとつは琉球ゴールデンキングス vs 名古屋ダイヤモンドドルフィンズに決定。さらに、ワイルドカード順位により、キングスのセミファイナルホーム開催が決まった。一度は諦めかけたプレーオフのホーム開催権が、今村佳太の大活躍によって再び舞い降りてきた。
試合スタッツ:りそなグループ B.LEAGUE CHAMPIONSHIP 2025-26 2026/05/10 宇都宮 VS 名古屋D | B.LEAGUE(Bリーグ)公式サイト

ストーリーとしてはあまりにも出来すぎている。今村佳太は2023-24シーズンまで琉球ゴールデンキングスの日本人エースとして活躍、2022−23のキングスBリーグ優勝にも大きく貢献して、キングスのファンにも愛されていた。
そして2024年オフ、キングスと今村佳太の別離は突然訪れる。契約途中解除として今村のキングス退団が発表された。そして今村はこのようなコメントを発表した。
キングスが築き上げてきた素晴らしいカルチャーと、熱いファンの方々に、沖縄アリーナという最高の環境が揃い、Bリーグ優勝という素晴らしい経験をさせてもらいました。
「琉球ゴールデンキングスともっと一緒にいろんな景色を見たい。」と思うと同時に、「このチームを倒してみたい。」と思うようになり、その葛藤の中でもがきました。
自分自身がさらに成長し壁を越えるにはこの決断しかないと思い今回の経緯となりました。

そしてキングスと今村は別々の道を歩むことになり、キングスファンの心の中には様々な感情が去来したことだろう。
そんな様々な感情を与えてくれたエースが、プレーオフで、敵となってもう一度戻ってくる。しかも、その敵がプレーオフのホーム開催という最高の舞台も与えてくれた。ストーリーとしてはあまりにも出来すぎている。

日環アリーナ栃木のバックヤードでメディアに囲まれて勝利のインタビューに応える今村。もちろん彼の胸にあるエンブレムは、2年前とは違う。今村に勝利への祝福を伝えて、キングスとの別離時に「このチームにいたいけれども、逆にこのチームを倒してみたくなった」と語っていたこと、そして自身の力でそれを実現する最高の舞台を掴み取った気持ちを聞いてみた。
今村は勝利の充実感とともに、かつて自らが語った言葉にも大きく頷きながら、今の率直な気持ちを話してくれた。
「琉球という素晴らしいチームとCS最高の舞台で戦えることは個人的に非常に嬉しく思いますし、何かの巡り合わせなのかと思う部分もあります。自分は名古屋に来てこのチームを優勝させようという思いでやってきているので、すごく色々な感情になっていますし、試合中もそうなると思います」
「それでも、自分のやるべきことに集中したい。それが良い方向に向いてくれると信じて今までバスケットボールを続けてきました。自分たちのやるべき事に集中します」

自分のやるべきことに集中する ー 今村佳太がバスケットボールプレーヤーとして特別な能力は、そこなのかもしれない。毎試合黙々と自分の仕事をこなすようなプレーヤーではない。事実、今季の彼は決して一貫性のあるプレーを続けていたとは言い難い。だが、大舞台にはめっぽう強い。それは、今この記事を読んでいる貴方が一番よく知っているはずだ。
かつて琉球ゴールデンキングスの一員だった今村佳太は、レギュラーシーズンのビッグゲームやプレーオフでこそ真価を発揮してきた。優勝した2022-23ファイナルGAME1、ダブルオーバータイムでの彼のプレーを覚えていれば、それ以上語る必要はないはずだ。
“PLAYOFF KEITA” は、たとえユニフォームの色が変わっても健在だった。プレーオフでの今村は、本当に特別な力を発揮する。そして沖縄サントリーアリーナのファンの熱量に、敵として対峙するのだ。燃えないはずがない。

最高の決戦を前に、貴方に少しだけ考えて欲しいことがある。
来季からB1リーグは「Bプレミア」となり、多くのことが変わっていく。そして、その変化の中には「選手移籍の活発化」が起こるはずだ。昨季まで味方だった選手が、ライバルチームに移籍することは日常茶飯事になるかもしれない。いや、そうならなければ「Bプレミア」にする意味は無いのだ。
もしかしたら、琉球ゴールデンキングス vs 名古屋ダイヤモンドドルフィンズ の一戦は、Bプレミア時代のナラティブ(物語)を少し先取りしているのかもしれない。かつてのエースが敵となって戻ってきた時、我々はどんな振る舞いをすればいいのか試されているのかもしれない。
個人的には、プレーオフは最高の舞台だからこそ、愛するチームの勝利だけを信じて情熱をぶつけるべきだと思う。決戦の瞬間、目の前の相手は倒すべき敵だ。貴方の情熱を勝利だけにぶつけろ。それこそがプロスポーツであり、日常の中の非日常エンターテインメントだ。
ただ、貴方の心の最後の一線は越えないで欲しい。エンターテインメントから先にはいかないでほしい。その一線がどこなのかは私にも分からない。でも、心の片隅には忘れないで欲しい。
僕らは試されている。時代を少し先取りした僕らが、どんな振る舞いをして、どんな顔をして、Bリーグプレーオフという最高の舞台を「エンタメ」として楽しむのか。貴方ならできる。なぜなら、貴方がた一人ひとりの情熱こそが、貴方の愛するチームを特別なものにしているから。
最強の敵がもたらしてくれた、最高の舞台を、思う存分楽しもう。
(写真・文:湧川太陽)


