琉球ゴールデンキングスは2007年に創設。2007-08シーズンから数えて今季で18季目のシーズンを戦っている。チームは着実に成長して、2022-23シーズンには悲願のBリーグ制覇を成し遂げた。
チームの成長と共に、それを支える組織も大きく成長してきた。運営会社である沖縄バスケットボール株式会社は現在約35人が働く組織となり、キングスというチームを中心に様々な分野で「沖縄をもっと元気に!」という活動理念のもと働いている。
ホームゲームを観戦するだけでは見えてこない【キングスで働く人々】の素顔を取材してみた。
セールス本部 パートナーセールス 責任者 安里 亮さんは、キングスを支える企業との窓口となる部門の担当者だ。
ホームゲームではアリーナ演出内で多くの企業名が表示されるし、沖縄県で生活していると様々なお店でキングスとのコラボ企画や商品を目にする。Bリーグの人気チームとなったキングスは、スポンサー企業とどんな取り組みを行っているのか聞いてみた。
パートナーシップ売上は、Bリーグ開幕後8年間で300%成長
——琉球ゴールデンキングスのスポンサーシップに対する取り組みを教えて下さい。
私たち琉球ゴールデンキングスは一般的なスポンサーシップという言葉ではなく、「パートナーシップ」という言葉を使っています。
私たちの理念である「沖縄をもっと元気に!」スポーツが生み出す興奮や感動、勇気や希望、そういったエネルギーは人が生きていく上で本当に必要なもので、それを届けるのがキングスの使命だと思っています。私たちの理念に共感いただき、そして共に歩んで頂ける企業様に末永く応援していただけるような関係性を目指しています。
我々は支援という意味で使われがちな「スポンサーシップ」という言葉は使わずに「パートナーシップ」という言葉でその関係性を表現しています。単発的な広告というイメージではなく、お互いが持っているリソースを活用したり、企業様が持っている課題に対してお互いの力を掛け算して、企業様の経営課題や社会課題を解決する事に重きを置いたパートナーシップを目指しています。
それらパートナーシップ企業様との活動を通じて「沖縄をもっと元気に!」を実現していきたい、と本気で思っています。そのための互いに支えあった末永い関係、パートナー企業様とキングスの結婚みたいな関係性を築いていきたいですね。
——現在、パートナーシップ企業の契約数、パートナーシップ売上はどれくらいでしょうか?
トップパートナー企業様の契約数でいうと、今季は198社の皆さまにご契約いただいております。サポートカンパニーまで含めると850社を超えています。
パートナーシップ売上は、先日2023-24シーズンの決算が発表されましたが、今季はさらに伸びてきています。おかげさまでBリーグ開幕以降の8年間で300%以上に成長しました。
2021年には沖縄アリーナが開業しましたが、その頃はコロナ禍でもありパートナー企業様も大変な時期だったのですが、それでも売上は減少することなく逆に微増いたしました。そういう意味ではパートナー企業様、そして多くの皆さまにいかにキングスが愛されているのかを実感した時期でもあります。
——すごい企業数ですが、営業担当チームはどれくらいの規模で動いているのでしょうか?
現在パートナーシップ担当は約13名で動いています。企業様と直接お会いする営業担当、企画デザイン担当、その他サポートを含めてチームで動いています。
それぞれの企業にオーダーメイドで提供する「アクティベーション」
——実際にパートナー企業はキングスを通じてどんな活動をするのでしょうか?
パートナー企業様がキングスのロゴや選手写真、ホームゲームなど様々なキングスに関連する権利を活用して企業活動をすることを「アクティベーション」と言います。
ファンの皆さまがよく目にするアクティベーション事例としては、沖縄ファミリーマート様のキングスマートがあると思います。ファミリーマート店舗の外装・内装をキングスの選手やチームカラーでラッピングするコラボ店舗を展開しています。
地元球団であるキングスで店舗をラッピングすることで、地域住民や観光客の皆さまに注目していただき、ファミリーマート様が目指す地域と一体となって歩む企業像を表現しています。キングスマートそのものがファンの交流の場となり、ファミリーマート様の地域におけるブランドイメージ向上に寄与しています。
我々キングスとしても、皆さまが普段から使うコンビニでキングスに触れていただくことで、ホームゲーム会場だけではなく日常生活にキングスが身近にあると感じて頂けます。パートナー企業様とキングスの互いの強みを生かした相乗効果を生んでいます。
もうひとつのアクティベーション事例として、JA共済様が行ったホームゲームご招待企画で「ひとり親家庭の親子200名をご招待」がございます。
沖縄県の社会課題としてひとり親世帯が全国で最も高く、それが子どもの貧困率の高さにもつながっています。その社会課題の解決に少しでも力になりたいとパートナー企業様であるJA共済様と共に考え、JA共済様の冠試合でひとり親世帯の親子をキングスのホームゲームにご招待してキングスの試合を観戦していただく事で、親子で笑顔になって夢を抱いてもらえるような企画です。
これはキングスだけで実現することは難しく、JA共済様そしてひとり親世帯の支援を行っている沖縄県母子寡婦福祉連合会様の協力があって実現することが出来ました。ご招待した親子の皆さまにもご好評いただき、私個人としても思い入れのある企画になりました。
これらはあくまでアクティベーションの一事例であり、それぞれのパートナー企業様の理念や強み、企業課題に合わせてカスタマイズしていくイメージで、全てがオーダーメイドです。
——ホームゲームを使った大規模なアクティベーションとしては、「○○ presents ゲーム」のような冠試合がありますが、どんなことを行っていますか?
Bリーグレギュラーシーズンのホームゲームは全30試合ありますが、パートナー企業様には冠試合は非常にご好評いただいております。
冠試合を行うパートナー企業様がそのホームゲームを通じてどんな活動を行うかは様々です。もちろん企業様の商品やサービスのプロモーション活動が中心ですが、なかには冠試合に合わせて沖縄アリーナの5階を貸し切り、自社社員様の慰労会を実施したり、取引企業を招いてホームゲーム観戦をしていただきながらパーティーを開催することもございます。パートナー企業様にとっても、自社の社名を冠にして「私たちのゲームにようこそ」とホストとして取引先様をお招きすることで大変喜ばれたとの声を頂いております。
—— Bリーグのホームゲームは10月から始まって5月までと約半年間ですが、パートナー営業担当はやはりその期間が忙しいんですか?
確かにホームゲームは10月から5月までですが、パートナー企業様の多くは3月決算であり年間計画もそれをベースに意思決定がなされます。我々のホームゲームを軸としたスケジュールで営業活動をしていては、こちらからのご提案と企業様が考える年間計画とは時間のズレが生じてしまいます。なので僕らは一年中パートナー企業様と接点を持ち続けています。広告を出して終わり、では良い関係性は続けていけません。つねに会話を絶やさない、まさに結婚と同じですね(笑)
—— 沖縄県内でのキングスの認知度は非常に高いですが、新規パートナー営業でうまくいかない事ってあるんですか?
もちろんあります。ただ仰っていただいたように皆さまキングスの事は良く知って頂いていて、僕が企業様へ訪問のアポイントを取ると「キングスの人が来るらしい」と噂になって歓迎して頂くことも多いです。選手じゃないのに(笑)
そういうところからも沖縄でキングスは愛されていると日々実感しています。実際にパートナー契約に至るかどうかは様々な要因が絡むので全て成約とはいきませんが、それは失敗ではなくタイミングが合わなかっただけ。次は良いタイミングで良い関係が築けると考えるようにしています。
パートナー企業と共に「沖縄をもっと元気に!」
—— 安里さんのお話はとても情熱的で引き込まれますが、入社当初から営業担当だったんですか?
はい、僕は入社10年近くになりますがずっと営業担当で頑張っています。僕はこの仕事を天職だと思っているんです。
実は僕、若い頃に世界中を旅していたんです。沖縄で生まれ育って学生時代もバスケをしていて「競技としてのバスケ」は大好きでした。世界中を旅するなかでアメリカのフロリダにいた時期があり、好きだったNBAを本場のアリーナへ観にいったんです。そこで衝撃を受けてしまって。そこには競技ではなく「エンターテイメントとしてのバスケ」がありました。おじいちゃんおばあちゃんが孫と一緒にホームゲームを楽しんでいたり、様々なイベントで観客を楽しませる仕掛けがあったり。当時マイアミ・ヒートにレブロン・ジェームスが在籍していて、レブロンのファイナル初優勝もホームアリーナの最上段で目撃しました。僕の人生で最大級の幸せでした。
もう一度この最大級の幸せにたどり着くにはどうしたらいいかと考えて、そうだ、沖縄にはこのNBAで働いてたジュン安永(安永淳一GM)もいる琉球ゴールデンキングスがあるじゃないか。沖縄に帰ってキングスで働こう、と心に誓ったんです。沖縄に帰って「インターンでいいから働かせてくれ」と何度も頼み込んで、そして今に至るという感じです(笑)
僕はその時感じた幸せを実現したくて、キングスの理念である「沖縄をもっと元気に!」を本気で実現しようと思っています。パートナー企業様にも僕のそんな気持ちが伝わっていてくれていたら嬉しいと思っています。
——キングスは数多くの沖縄県内の企業に支えられていますが、今後は県外や海外の企業へパートナーを広げていくお考えはありますか?
キングスの新たなミッションとして「沖縄を世界へ」と掲げています。沖縄県内のファンの皆さま、企業の皆さまに応援していただき、悲願である日本一にもたどり着く事が出来ました。ここからさらにアジアへ、世界へとステップを踏むフェーズに入ってきています。
そういった意味でも、キングスの掲げるビジョンに共感いただいた企業様とともにアジアへ、世界へと共に挑戦していきたいと考えています。
(取材・文:湧川太陽)