22勝8敗 全30試合。
琉球ゴールデンキングスがBリーグの10年間で積み重ねてきた、チャンピオンシップにおけるホームゲームの記録だ。
チャンピオンシップ、いわゆるプレーオフをホームで30試合を開催したキングスは歴代最多。2位の千葉ジェッツ、宇都宮ブレックスの21試合を大きく引き離してダントツ1位だ。(2017-18まで行われていた10分間ミニゲーム方式GAME3を含む)
その30試合目となる2026年5月16日、琉球ゴールデンキングス vs 名古屋ダイヤモンドドルフィンズ CSセミファイナルGAME2。キングスが5年連続ファイナル進出を決めた試合の記者会見に、岸本隆一がやってきた。
岸本は、レギュラーシーズン終盤から「CSをホームでやることに非常に大きな意味がある。CSでの僕らのプレーを見てもらい、何かを感じてもらいたい」と話していた。
岸本隆一は「CSを見て欲しい」と言った。
岸本隆一は「ホームで僕らを勝たせて欲しい」とは決して言わなかった。

プレーオフという真剣勝負をホームタウンで戦う ”価値” とは何だろうか。
アウェーチームより休養が多くなりコンディション調整しやすい?ホームコートアドバンテージと呼ばれるようなホーム有利のジャッジが多くなる?ホームの大声援がアウェーチームを萎縮させる?
それらはある意味正しいが、”価値”とは少し違うように感じる。
怪我で負傷欠場した昨季を除き、沖縄で行われたCSホームゲーム全ての中心にいた岸本、プレーオフの熱狂の渦の中心にいた岸本は、その時の心境を反芻するように話してくれた。
「僕の気持ちとしては、ただただ必死でした」
「今でこそ自分の立場や立ち位置を理解して、振る舞いに気をつけていますが、とにかく隙を見せられないという気持ちの方が強く、純粋に手放しで楽しめる瞬間はほぼなかったです」
「ただ、だんだん勝率が上がっていく中で、色々なものを抱えてプレーするからこそ、自分自身の為だけではなく、より得られるものが大きい。背負っているものが多ければ多いほど、自分たちにとって実りのあるものが多いということに気づかされました」
「勝ったから嬉しいというだけではありません」

沖縄県出身で、チーム生え抜きであり、エース。Bリーグを見回しても、真の意味で『フランチャイズプレーヤー』と呼べる選手は岸本だけだ。
もちろんプレッシャーはあっただろう。自身が言うように、周囲から様々なかたちで「勝利」を求められたのだろう。
沖縄のプライドを見せろ。キングスは強豪であるべきだ。もっと必死でプレーしろ。とにかく「勝て。」

「勝利」だけがホームゲームの”価値”なのだろうか。いや、違う。違うはずだ。
逆説的になるが、CSホームゲームを30試合戦ったということは、より多くの「敗北」があったということになる。CSホームゲーム8敗もまた、Bリーグ最多。その敗北に価値は無いのだろうか。いや、違うはずだ。
プレーオフで誰よりも多くの悔しさを味わったからこそ、得るものも大きかった。7年前の5月7日の沖縄市体育館に鳴り響いた大声援も、試合終了時の悔しさも、熱狂の中に自分がいた充実感も、僕は今でもはっきりと覚えている。
レギュラーシーズン終盤戦、アウェーチームの指揮官や選手が異口同音に口にする「バスケットボールを文化にしたい」という言葉を多く聞いた。
バスケットボールを“文化に”とは何なのだろうか?「勝利」すれば文化と呼べるのだろうか。
おそらく、違う。
“文化”とは、”記録”ではなく、”記憶”だと思う。
同じ日の記者会見、勝利に上機嫌だったヴィック・ローが話してくれた言葉が、プロスポーツが街の”文化”となるという意味を示唆していた。
「私自身もホームタウンであるシカゴ・ベアーズのファンなので、ファンであることの意味はわかります。チームと一緒に笑ったり泣いたりする気持ちを理解できます。沖縄のファンは、琉球ゴールデンキングスという組織と沖縄県にとって非常に重要であり、彼らファンこそが、この場所を特別な場所にしています」

ヴィック・ローがイリノイ州の少年だった頃から、NFLシカゴ・ベアーズのシャツを着ながらテレビの前で応援して、QBの真似をして、タッチダウンに狂喜乱舞したことだろう。ベアーズのホームスタジアムであるソルジャー・フィールド、そこで行われるNFLプレーオフの大舞台でプレーする自分の姿を夢見ていたのかもしれない。そんな子ども達の思い出の一つひとつが”文化”なのだろう。
“文化”とは、その場所で生きる人々の”記憶”の積み重ねから生まれる。そして、真剣勝負であるプレーオフこそ、自分たちの街で行われるプレーオフこそ、人々の”記憶”にしっかりと刻み込まれる。勝利も。敗北も。歓喜も。涙も。

だからこそ、岸本隆一は「CSを見て欲しい」と言ったのだろう。その真剣勝負を見る一人ひとりに、その熱を共に創り上げる観客一人ひとりの”記憶”に刻まれるであろう、その一瞬を表現する事こそが、自らの存在意義。だからこそ、岸本隆一は「勝たせて欲しい」とは決して言わなかったのだろう。

沖縄にアリーナが完成する前、僕は聞いた事がある。
「キングスのアリーナ、ファンの為のアリーナというよりは、キングスが沖縄にあることで、みんながゆるく応援してくれて『沖縄のみんなのアリーナ』になって欲しいですよね」
そう、チームを強くしたい、勝ちたいだけでは、熱狂の渦は大きくならない。「勝利」だけでは、みんなを元気にできない。
そこに生きる人々の感激や感動、思い出が積み重なっていく場所。それこそが本当の「夢のアリーナ」なんだろう。
岸本隆一の話す言葉は、かつて僕が聞いたその言葉と繋がっていた。Bリーグの10年間で琉球ゴールデンキングスが見せてくれた30試合。その一つひとつが、僕たちに”文化”を積み重ねてくれた。

“文化”は循環する。そして「強さ」に戻ってくる。
プレーオフのキングスは強い。5年連続ファイナル進出という事実が、それを証明している。
佐土原遼やデイミアン・ドットソンという新加入の選手たちも、レギュラーシーズンと呼ばれる日常を経て、真剣勝負のプレーオフではチームとしての一体感を見せる。その理由を聞かれて、岸本隆一はこう答えた。
「僕自身が彼らに何かをアプローチしたことはあまりありません。ただ、新たに加入してきた彼ら自身が、何かを感じ取ってチームに貢献したいと思わせられるような、自分たちの雰囲気があったのだと思います」
「組織として積み重ねてきた雰囲気が、彼らの良さを引き出したいと思わせ、彼らもチームに貢献したいと言ってくれ、お互い尊重し合いながらチームとしてまとまっていったのだと思っています」
プレーオフでギアチェンジできるような魔法のスイッチは、存在しない。選手たちもまた、この街に住み、この街を感じ、この街の象徴であるチームの”文化”を感じるからこそ、真剣勝負の強さに繋がるのだと思う。

琉球ゴールデンキングスという組織を作った最初のひとりに、僕は聞いた事がある。
「この島に、本物のエンターテインメントを作りたい」
Bリーグの10年間で琉球ゴールデンキングスが見せてくれた30試合。その一つひとつは、まさしく本物のエンターテインメントだった。
僕は、岸本隆一にもうひとつ質問した。僕達のこの島に、本物のエンターテインメントを作り上げてきた意義について。
岸本は少し考えて、少しの笑顔と共に、こう答えた。
「CSホームゲームの意義についてですが、こういうヒリヒリしたゲームを見られる子供たちはすごく幸せだと思います。自分が子供の時に見たかったのはこういう試合、いや、”景色”だったんだろうなと思うので、単純に羨ましいです」
「その中でプレーできている自分を誇りに思いますし、何年か後に『あの時のCS見てたよ』という子供たちが、またこのコートでプレーして続いていってくれたら、自分の存在意義というか、もっと誇れるところがあるのかなと思っています」

岸本隆一は、こうも話してくれた。
「特に沖縄の子供たちには『俺だってこれくらいできる』と思ってもらえるような、もう少し生意気になってほしい気持ちもあります。僕も少年時代はそういうタイプでしたし、子ども達にそう思ってもらえるのが地元のプロチームの良さだとも思います」
「そういうサイクルをどんどん繋いでいって、球団としても、沖縄にとってより良い存在であり続けてほしいというのが個人的な思いです」
そう、もっと生意気でいい。自分こそが一番だと思ってもいい。僕らの小さなこの島は、そんな子供達を優しく見守っている。
そしていつかこの島を巣立ち、成長して、またこの島のために生きる。次の生意気な子供達のために。その繋がりの中に、地元のプロスポーツがあればいいのだろう。
岸本隆一が「アリーナの皆の思いが決めさせてくれた」と語った第3クォーター最後のバンクショット。
人々の記憶に残るであろうショットを決めた直後、岸本隆一は勝ち誇った顔で見慣れたエンブレムの上を駆け抜けていった。まるでかつての生意気な少年のように。
「沖縄を、もっと元気に」を積み重ねてきたCSホーム30試合目を終えて、琉球ゴールデンキングスはBリーグ最後の舞台に立つ。












(写真:Hamataro、佐藤智彦、写真・文:湧川太陽)

