【特集後編】ともに戦った仲間が語る アンソニー・マクヘンリーのすごさ 

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栗野譲氏(現 琉球ゴールデンキングス アシスタントコーチ)インタビュー

勝つメンタリティがありますし、それを文化に染み込ませる力を持っている

2019年から信州で2シーズンを過ごした栗野譲AC 写真提供:琉球ゴールデンキングス

 

─ 2019-20、2020-21シーズンを信州ブレイブウォリアーズでACとして過ごされました。マクヘンリー選手と接する中で、どのような人間性を持っていましたか?

仕事柄コーチなので、立場的にオフコートで過ごす機会は他の選手たちと比較すると少なかったですが、非常にプロ意識が高かったです。ポイントガードというポジションではないんですけど、コート上のポイントガード的な存在だったと思います。

ール運びも出来ますし、非常にバスケットボールのIQも高くて、リーダーシップもある選手です。彼がいることで練習が締まることが多かった。練習内容的にグダグダ感があるときだったり、ヘッドコーチが要求しているものを選手たちが理解しきれなかったときに、よく彼が練習を仕切ってくれました。

ベテランですが、毎日のように先に練習に来ていて、他の選手たちよりも先に体育館に入っていることが多かったです。自主練習に関しても、申し分がないくらい自分のメニューもすごくよく考えていました。身体のケアもほぼ毎日のように治療をしていますし、食事のことも気を使っていました。まさにザ・プロフェッショナルでした。

 

─ 沖縄のレジェンドは、信州でも同様にレジェンドなのでしょうか?信州のクラブやファンにとってはどのような存在でしたか?

そうですね。僕も現役時代はNBL側でプレーしていたんですけど、NBL側でもマクヘンリー選手の評価は非常に高かったので、まずそういったイメージがありました。彼と初めて出会ったのは、自分の現役の末期だったんですけど、ちょうど彼が琉球を離れる時でした。偶然僕も沖縄に来ていて、そこではじめて込み入った話が出来たんです。

信州に移籍してからも、ある雑誌のインタビューで彼が「自分がWinnerである」という表現を使ったことがあるんですが、どこに行っても勝つメンタリティがありますし、それを文化に染み込ませる力を持っていると思います。信州でもレジェンドですね。

 

─ 日本でここまで長くプレーをすることになった想いや感想を、マクヘンリー選手本人はどのように語っていましたか?

あまり琉球での話はされていなかったんですけど、それも彼のザ・プロフェッショナルなところのひとつだと思います。ほとんど過去の栄光を語ったことのない人なので、毎日自分のいる場所に集中していたので、琉球の話も良い意味でしなかったです。

いろいろ彼のインタビューを自分も通訳してきたんですけど、もちろん沖縄には思い出がたくさんある場所で、沖縄についても良い話しかないんです。それでもチームの中ではそういう話は絶対にしなかったです。常に彼は信州でマイケル勝久HCが掲げている「日々成長」というスローガンのもと活動していたので、毎日その日のことしか語らなかったですね。

 

─ コーチキャリアを先にスタートしている栗野さんは、マクヘンリー選手の今後のキャリアに対して、助言、あるいは会話をしたことがありますか?

実は僕がプロでのキャリアでは先輩になるかもしれませんが、コーチングキャリアとしてはマクヘンリー選手のほうが先だと思うんですよね。

彼が話をしていたのが、ちょうど日本に来る前に彼の母校で大学院生として学生コーチをやる予定だったんです。もとから毎年オフシーズンは、自分の大学でコーチングの勉強をしていたそうですね。

どちらかといえば僕がはじめて信州に入ったときに彼に助言されたことが多いと思うので、それを語れる立場ではないと思います。僕もバスケットボールスクールだったりとか、インターナショナルスクールの女子のコーチはしていたんですけど、はじめてプロのコーチをしたのでいろいろな意味で彼からアドバイスを貰ったり助けられたことが多かったです。

自分がオンコートでコーチングをしているときに、はじめての仕事だったので緊張することもありました。そういった時に救われることが多かったです。例えば僕が言いたいけどうまく表現できていないところを彼が割り込んで僕の代わりに語ってくれたりとか、例えば僕が今日は失敗したと思ったところを、彼がそんなことはないよと言ってくれました。

 

─ マクヘンリー選手はNCAAファイナルフォーに選手としても出場されていたり、ジョージア工科大学でコーチングを学んでいました。栗野さん自身もさまざまな球団を渡り歩いて、さまざまなコーチのもとで学ばれています。二人の会話はレベルの高い次元で行われていたと想像しますが、互いにリスペクトしあう二人は深い話をされていたのですね?

バスケットボールの話もそうですけど、カルチャー的な部分もそうだったんですよね。選手がどう思っているかという空気感、今こういう空気だよという話もよくしてくれました。僕も元選手なのでもしかしてこういう雰囲気なのかなという話をしたときに、彼はよく理解してくれました。

また彼はコーチとしてのマインドも持っていたので、もしかしたらコーチたちは今これを思っているのかなということも彼は察してくれたので、それを上手く選手たちに伝えてくれたりとか、練習中に事がうまくいっていないときに、コーチ陣がどう思っているかを理解してくれていたので、そのあたりの空気を読みながら練習運びをしてくれましたね。

また、彼は年齢的なもので肉体的に辛い日もあったと思います。本来ならばヘッドコーチが休んでいいよという話もするんですけど、彼は「今うちのチームには俺のリーダーシップが必要だ」と言ってくれて、我慢をしながら練習をしてくれたり、試合に出てくれたということもありました。戦力的にもそうですし、チームの雰囲気だったり、チームのカルチャーの部分において、今何が必要なのかということを察する部分においてはすごくレベルの高い話をしてくれていました。

 

─ マクヘンリー選手がザ・プロフェッショナルだということで、勝者のメンタリティを信州にもたらしたと理解しました。マクヘンリー選手が加入してから、B2中地区を2年続けて優勝して、B1昇格に導いたわけです。その戦いのなかで印象に残っているエピソードがあれば教えてほしいです。

特定のエピソードはないですね。彼が例えば口頭で何かを言うということがそれほど多くないんです。逆に彼が喋るとインパクトがあるんですよね。

例えば反復練習をしているときでも、何かうまくいかないときに我々が言うまでもなく彼が「アゲイン!」と言うんですよね。彼は絶対に満足をしないので、一つのプレーにおいても、一つのアクションに対しても。勝久ヘッドコーチもそういう性格なんですけど、マクヘンリー選手がそういう性格でもあるので妥協がないんですよね。なので、不完全燃焼のまま、うまくいかなかったなということがあまり無いのです。その場で彼が「アゲイン!」と言ってもう一回この練習を繰り返すということもあります。

我々が戦術的に、あるカバレッジについての(具体的な)話をしていないんですけど、彼がその場で工夫して、その要所要所でのいろんなプレーを読みながら、彼が自身の持っている能力を活かしてそのカバレッジをしてくれます。

2019-20シーズンのエピソードですが、当時信州はB2の中地区で一位だったんですが、コロナウイルス感染拡大によりシーズンが中止になりました。そのときにチームミーティングで彼が言っていたのが、

「もちろんみんなB2プレーオフで戦って、優勝してきっちりB1に昇格をしたいと思っているだろうけど、そもそも日頃から勝久ヘッドコーチが話している「日々成長」を高い志を持って取り組んでいたからこそ、それが1勝1勝につながって我々は西地区一位にいる。その努力があったからこそ、その位置にいる。だからプレーオフを戦えなかったとしても、そこに罪悪感を持つ必要はない。我々はこれで堂々とB1で戦うぞ」
という話をしていましたね。

逆にその前の年はB2で優勝していたのですが、B1ライセンスを持っていなかったので(昇格とはならなかった)。

その時のミーティングで選手たちに言ったのは、
「それはそれでいいではないか。逆にB1に昇格するときに準備ができるから、もう1シーズン戦おう」という話をしていたようです。人生はうまくいかないこともあるんですけども、彼はそれを重く感じすぎない人なんだろうなと思いました。

プレシーズンのチームが集合した一日目から取り組んできた努力の賜物なんだという話を彼がしているので、その時その時を彼は生きているんだと思います。

 

─ 僕らが知っているキングス時代のマクヘンリー選手のままだなと話を聞いていて思いました。どちらかといえば声を大きく張り上げるタイプではなかったけれども、やるべきことはすべてやっている。プロフェッショナルというところでも、日々の積み重ねが大きかったんだろうと、そしてその姿勢がきっと信州でも引き継がれてカルチャーになっているとそんなイメージが持てました。

ギャーギャーと話すわけでもなく、コツコツと毎日現れて仕事してそこからまた明日成長しましょうみたいな感じなので、逆に選手たちも焦りを感じなかったかもしれないですよね。

信州はbjリーグ時代に一時期はプレーオフに進出する時期があったと思います。僕はリーグにはいなかったのですが、成績はみたことがあります。Bリーグになってからはあまり良いシーズンは送れていなかったので、でもたぶん勝久マイケルヘッドコーチとマクヘンリー選手が入ったことによって、成績のことは気にせずに毎日毎日を大切にしていこうというマインドセットになったと思います。

 

─ 実際にそうやって信州のカルチャーを勝久ヘッドコーチとマクヘンリー選手が作っていったときに、ファンからはマクヘンリー選手の存在はどのように見えていたのでしょうかね?

神じゃないですか?琉球と変わらないと思いますよ。たぶん神だと思います。(笑)。

逆にマクヘンリー選手となんで信州を選んだの?という話をしたときに、彼も(信州は)球団としてきちんとしているという話をされていましたね。印象的には弱小にみえるかもしれないけど、首脳陣からヘッドコーチまでしっかりしていて、プロセスを重んじているから選んだという話をしていました。そこがまた彼らしいですよね。プロセスを重んじているところで敢えてやりたいという。

 

─ 4月20日(水)に沖縄アリーナにやってくるマクヘンリー選手にどのような言葉をかけたいですか?

(笑)。。。

どうなんでしょうね。たぶん何も言わないかもしれませんね。このあいだの(アウェー)信州戦も挨拶だけして、「元気?」ていう話しかなかったので。彼は僕の性格もよくわかっているので。僕はすごいあれなんですよ、試合前とか無愛想なんですよね。(笑)。

彼も長い話をするタイプではない男なので。挨拶して「元気?」とか言ってすぐにそのままウォーミングアップをしていくと思うので。彼はいつものように琉球のファンの前でいいパフォーマンスをしたいと考えていると思います。そもそも信州も非常にタフなチームなので、信州さんに「ご勘弁を」と言いたいです。(笑)

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この記事を書いた人

1983年11月5日生。東京都豊島区出身。那覇市在住。母が那覇市出身で2015年に沖縄移住。沖縄バスケットボール情報誌OUTNUMBERゼネラルマネージャー。
中学2年生のウインターカップ(1997年)で、当時圧倒的な強さを誇っていた能代工業を追い詰める北谷高校の勇敢な戦いぶりに衝撃を受け、以来沖縄のバスケットボールを追いかけるようになる。野球やサッカーに並ぶように、バスケットボールのジャーナリズムを発展させていくことを目指し、2018年10月にOUTNUMBERを創刊した。
2020年にはOUTNUMBER WEB、OUTNUMBER YOUTUBEを運用開始した。

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