「毎年心がけている部分ですが、チームが勝つことにフォーカスしてやってきたことが結果に繋がった。自分としては上出来ではないですけれど、いいシーズンの終わり方したのかなと思っています。」
5月8日のレギュラーシーズン最終戦の記者会見、琉球ゴールデンキングスの看板選手である並里成は、今季を振り返ってこう語った。
いつも自信に満ち溢れたファンタジスタが『個人としては上出来ではなかった』と振り返った今シーズン、琉球ゴールデンキングスはB1リーグ歴代最高勝率を叩き出した。だが好調なチームの裏で、並里はリズムを掴んでいるとは言えなかった。
チームは昨季より選手層が厚くなり、よりボールムーブメントを重視するオフェンススタイルに変化した。ボールを長く保持してビッグマンとのピックアンドロールで打開する、そんな並里が得意とするスタイルは、意図して抑える必要があった。並里もチームの変化を理解していた。
「(チームとして)今年は中に行く選手が増えたり、ガードだけではなくセンターや色々なポジションの選手がボールを保持する時間を増やしていました。」
そして並里は、チームが彼に求める役割を果たす為に自らのプレイスタイルも変化させた。
ボールを持たずに、他の選手がプレイしやすいスペースを作るためにコーナーにポジショニングして、キャッチアンドシュートで3ポイントを放つタイミングを待つ。今までの並里成とは違うプレイを見せる場面も多かった。今季の並里の3ポイント試投数は119本。これは今村、岸本に次ぐチーム3番目の多さであり、3ポイント成功率も36.1%と彼のキャリアで2番目に高い確率だった。
「(役割が変わった事で)僕がウィングに行ってシュートを打つ場面は多いと思っていたので、3ポイントを高確率で決められるように意識をしました。」
並里が自らの変化を受け入れた事は、指揮官との信頼関係が大きかった。
昨季チャンピオンシップ(CS)準決勝敗退が決まった後の記者会見で、並里は「キングスは優しい選手が多いけど時には心を鬼にして言うべき事を言わなきゃいけない。」と、戦うチームとしての厳しさが必要だと話していた。今季の並里にその事を聞くと「ヘッドコーチがしっかりと厳しいことをチームに言ってくれるので、何か僕らが会話をする前にそこはもう解決している事が多い。」と語った。
桶谷ヘッドコーチも、ある日の記者会見で「並里と僕は、アイコンタクトで試合中もうまく意思疎通が出来ている。並里がディフェンスで相手ガードに激しいプレッシャーをかけてくれて、もし少し体力が落ちてきたらベンチの僕に目配せしてくれる。そしたら岸本とチェンジするとか。いい信頼関係が築けていると思います。」と並里への信頼感を語ってくれた。
そして指揮官はCSを前にして、信頼する並里にもう一度彼のリズムを取り戻して欲しいと願っていた。5月7日の広島戦、桶谷ヘッドコーチは並里を4クォーター10分間ずっとコートに立たせ続けた。その理由を問うと指揮官はこう答えた。
「並里はCSで僕たちに必ず必要な選手で、彼のクリエイティブな部分が絶対にCSでは活きてくる。4クォーターの勝負のかかる場面では昔から『クラッチタイムの並里』はやってくれていたし、最近はずっと岸本で(クラッチタイムを)やってきていたが、いいチャンスだったので今日は並里にその時間帯をやってもらった。勝負どころで3ポイントも決めてくれたし流石だなと思いましたね。」
並里自身も、今季のチームの成長に強く手応えを感じている。
「今シーズンは『周りにさせる』『周りの考え方を尊重する』っていうところで僕がボールを触る時間が凄く短かったなと感じるんですけど、これもチームが勝つために必要なことなのかなって思っています。本当に周りの選手がすごくステップアップしてくれて、チーム全体がレベルアップした感じがしたのでシーズンの終わり方はすごくよかったのかな。」
そして同時に『クラッチタイムの並里』としての矜持も語ってくれた。
「本当にプレーオフになったら、また僕が何とかしないといけない時間帯っていうのは必ず出てくる。シーズンに入る前からそう思って僕はやってきた。必ず後半の勝負所でその時間帯が来るのかなっていう予想はしてるので、その時間帯に来た時にはしっかり結果を出せるように準備していきたいと思います。」
今季の開幕節アルバルク東京戦、ジャック・クーリーとのコンビで魅せたクラッチプレイ。あれくらいのプレーは期待してていいですか?と聞いてみた。
並里は一瞬笑顔を見せると、「はい。ぜひ」と彼らしく言葉少なくそして力強く答えてくれた。