琉球ゴールデンキングスは、オーストラリアNBL(ナショナル・バスケットボール・リーグ)の強豪であるパース・ワイルドキャッツを沖縄に招聘し、プレシーズンゲーム「ISLAND GAMES 2026」を開催する。 今回のマッチアップには、千葉ジェッツも参加する。
「ISLAND GAMES 2026」は、9月7日(月)に千葉ジェッツ、9月10日(木)に豪NBLパース・ワイルドキャッツ、9月15日(火)に茨城ロボッツと対戦する。さらに9月8日(火)には千葉ジェッツ vs パース・ワイルドキャッツも開催される。

キングスがクラブの大きなテーマとして掲げている「沖縄を世界へ」 その壮大なビジョンは、現時点でどこまで到達しているのか。琉球ゴールデンキングスの安永淳一GM(ゼネラルマネージャー)に、強豪を招聘した意図、日豪のバスケットボールスタイルの違い、そしてクラブの「現在地」を聞いた。(取材日:2026年8月28日)

『沖縄を世界へ』に向けた現在地と、強豪を選ぶ理由
近年、日本のバスケットボールのレベルは着実に向上している。安永GMもアジア圏における日本の立ち位置について、確かな手応えを口にする。
「東アジアスーパーリーグ(EASL)や日本代表戦を見ても、中国や韓国に対して日本の方が優勢に戦えるくらいのレベルに今なっていると思います」
しかし『沖縄を世界へ』という目標を見据えた時、現在のレベルに満足することはできない。 プレシーズンの対戦相手にオーストラリアの強豪を選んだ理由について、チームの現在地を測るための明確な哲学があるという。
「プレシーズンで楽に勝利するよりは、苦しんでも負ける思いをすることは大切だと思っています。 4戦全勝しましたというよりは、1勝3敗でしたという方が、自分たちの弱点や足りていない部分がはっきり判断できるからです。 本当に背伸びして、常に強い相手と戦いたいと思っています」
過去2年、キングスはイタリアとオーストラリアへ遠征し、現地のプレーオフ出場チームと対戦してきた。




「接戦はするけれど惜しかった、勝ちきれない。 残念ながら、僕たちのレベルよりもオーストラリアのプレーオフに出るチームの方が上なんじゃないかなと。 だからこそ、今の僕たちからするとNBLはとってもいい対戦相手だと思っています」
安永GMは、NBLの上位チームとの対戦を、世界最高峰であるNBA(北米プロバスケットボールリーグ)を目指すための「一つ手前の段階」と位置づけている。
「いきなりNBAに飛び込んでいったって、まだ力不足だとはっきり思います。 ですから、NBAの1個前の段階として、NBLやヨーロッパの上のチームを自分たちが超えるべき壁として戦うことには、非常に意味があると思っています」
「沖縄でキングスを見たい」都市の象徴を目指して
2023年に『沖縄を世界へ』という目標を掲げてから3年が経過した現在、その達成度はどのくらいなのだろうか。安永GMは現状について率直に語る。
「まだまだです。 最後はやっぱり、国外の人たちが沖縄にキングスを見にやってくる、あるいは日本に来た時に東京から沖縄まで足を運んで試合を見て帰るくらいに行きたいと思っています。 名前を知っているという段階から、『実際に見てみたい、行ってみたい』と言われるところにどうにか届かないといけません」

海外への意識が強いキングスだが、それはBリーグ内での優位性を示すためではないという。
「Bリーグの中で比較しているのではなく、海外からキングスを見てもらわなければいけない。そのために、まず我々自身が率先して海外に向けて手を挙げていかなければならないという気持ちです」
「遠征している時に感じるのは、どこに行っても沖縄からの移民の方々が現地にいらっしゃる点。パースでも非常に歓迎してもらえました。 社会的にキングスがそういった人たちのところに出向いていく、『来てくれた』と感じてもらえることに非常に意味があると思っています。 強いチームを作るだけでなく、人と人が繋がる交流としても絶対にやりたいです」
目指すのは、地域の枠を超えたグローバルな存在だ。ニューヨークと言えばヤンキース、ヨーロッパならバルセロナFCやマンチェスターユナイテッドといったように、都市とチームが連想されるようなイメージが理想だという。
その目標に近づくためにも、今回のパース来日は重要な意味を持つ。今年は「日豪友好協力基本条約締結50周年」にあたり、パース・ワイルドキャッツ戦は日本とオーストラリア両政府の支援を受けた記念事業の一環としても位置づけられている。

「社会的事業としての意義もあり、我々としては強化のために非常にいい。 逆にパースにとっても『日本に来たら相手が弱かった』とならないよう、僕らもいいスパーリングパートナーになれるよう全力をぶつけないといけません」
「沖縄とパースは似ている」地理的孤立と反骨精神という共通点
パース・ワイルドキャッツとの交流は3年前から始まった。 話を進めるうちに、両チームには「中心地からの地理的な孤立」という大きな共通点があることがわかった。
「オーストラリアはシドニーやメルボルンなど、大陸東側にほとんどのクラブが集中しています。 パースだけが西側にポツンと位置していて、日本本土から遠く離れた南西にいる沖縄の僕たちと似ているね、という話になりました」
この共通点は、チームが持つ反骨精神にも繋がっているという。
「『首都圏と肩を並べて戦いたい。遠く離れているから置いてきぼりになり、それに甘んじるようなことにはなりたくない』と我々の思いを伝えたところ、パースの方々も全く同じことを考えていました。 メルボルンやシドニーなどのビッグシティに対して勝ちたいという気持ちが非常に強く、自分たちの街に対する誇りを持っています」
「昨年パースに行ったら想像以上に自然があって、人もおおらかで、すごくウェルカムしてもらえました。 もっと人と人との行き来ができた方がいいよねとお互いを知るようになり、今度はお返しに彼らがこっちに来てくれることが決まりました。 ただ単に強化というだけでなく、文化的な社会的興味もお互いにあっての交流の始まりです」

世界基準を知る――日豪のバスケットボールスタイルの違い
世界基準のクラブになるためには、世界中の様々なプレイスタイルを知る必要がある。安永GMは、日本とオーストラリアのバスケットボールスタイルの違いについて言及する。
「我々は外国籍選手をスカウティングをする際に、オフェンスがどれだけできるかを見ます。しかしオーストラリアの場合はディフェンスがどれだけできて、みんなと繋がれる『コネクター』になれるかを見て選手を使っています。 個の力で戦い続けるのではなく、みんなが踏ん張る感じで、チームの平均値が高いんだと思います」
現在パースの中心選手であるクリスチャン・ドゥーリトルは、2022-23シーズンにはBリーグ岩手ビッグブルズに所属していた。
「当時、ドゥーリトル選手をスカウティングをしていて、キングスとしては少し物足りないなと思って獲得までは興味を持ちませんでした。 しかし、彼は今オーストラリアでトップのディフェンスの選手として、チーム全体を良くするための選手としてすごい活躍をしています。 やっぱりスタイルや考え方が違うなと思います」
また、フィジカル面の育成についても大きな差を感じているという。
「オーストラリアは若い世代の育成が優れていて、ウェイトトレーニングなど体作りのところから教えています。 昨年、キングスから佐取龍之介選手をパースに送り込んでワークアウトをしてきましたが、やっぱりレベルが高い。 日本代表のU18チームが戦っても、アジアでは勝てるけれどオセアニアではなかなか勝てないという差が実はあります」
「日本でポイントガードと言えば、河村選手や斎藤選手などの名前が出てくると思いますが、世界を見るといろんなスタイルがあるんだなというのを見てほしいです。 型にはめてピースとして活躍しなさいという感じではなく、もっとそれぞれの個性を伸ばすような感覚が指導者にも選手にも必要かなと思っています」

「オン・ザ・コートフリー」の模擬試験と人材交流の可能性
パースには、Bリーグでプレイする強力な帰化選手や外国籍選手と同等レベルのオーストラリア人選手が多く在籍している。 安永GMは、この試合を日本チームの現在地を測るテストとして見ることができると語る。
「感覚的には、『オン・ザ・コートフリー』のチームと戦っている気分になると思います。 そういう相手と戦った時に、『うちの日本人の選手はすごい頑張れるんだ』『ディフェンスで止められた』『フィジカルでも日本人のほうが強いじゃん』といった見方ができます。パース・ワイルドキャッツとのプレシーズンゲームは、 オン・ザ・コートフリーの模擬試験のような気持ちで見ていただくのもアリかもしれません」
こうした国際試合は、将来的な選手の移籍やコーチの獲得といった人材交流に繋がる可能性も秘めている。
「お互いに可能性はあると思います。 オーストラリア人の選手も日本でプレイしたいと思ってくれていますし、日本の選手もオーストラリアでプレイできるならしたいという思いはあります。 BリーグとNBLの協力関係もあるので、色々なことが起こり得ると思います」
実際に、国際試合をきっかけとした人材流動はすでに起きている。
「過去、イタリアのチームと対戦した際に日本に行きたいという話があり、そこから来日に繋がったようなケースもあります。 海外のチームも日本人選手やスタッフに関心を持っていますし、台湾で行われたウィリアム・ジョーンズカップでの日本代表や台湾代表のヘッドコーチもオーストラリア人でした。 オーストラリアから学べることは非常に多いです」

キングスが描く『沖縄を世界へ』の未来図
『沖縄を世界へ』の実現に向け、新シーズンのキングスはどのような姿を見せるのか。川真田紘也や佐土原遼など負傷選手の復帰時期という懸念材料はあるものの、チームの仕上がりには確かな手応えを感じている。
「今年のチームには、選手もスタッフも『日本のことを知り尽くした人たち』が集まっています。 日本でのキャリアが19シーズン目になるマクヘンリーAHCが、『日本で勝つために』ずっと考えていて開けたかった『パンドラの箱』を開けてくれるんじゃないかなと。 彼が今まで18年間ため続けてきた知識と経験を開けてくれる可能性は非常に大きいと感じています」
「ディフェンス自体は大きく変わらないと思っていますが、オフェンスはファストブレイク(速攻)での得点を直そうとしています。 テンポのいいバスケットをしていくことで、見るお客さんがより楽しい、より興奮すると思ってもらえる。 それがまた声援として戻ってきて、いい相乗効果が現れるのではないかと思っています。今のところ手応えを感じています」

では、今後『沖縄を世界へ』を目指すにあたって、さらに見据えているターゲットはどこなのだろうか。
「リーグとしてはオーストラリアはとても良いところだと思っています。 あとはヨーロッパのイタリアやドイツ、最近伸びているフランスやスペインなどです。 アメリカ進出については段階を踏む必要があると考えています。 現時点でアメリカにいきなり行っても観光で終わってしまうと思うので、行った際に『おっ』と言わせるくらいの実力をつける必要があります」
日本のBリーグは現在、世界で最も急成長しているリーグとして海外からも関心を集めている。 安永GMは、こうした国際交流が日本のバスケットボール界全体にもたらす未来をこう見据え、こう結んだ。
「このような交流が我々だけでなく全国のクラブで当たり前になる世界が来ると思いますし、日本代表のレベルを上げるという意味でも意義が大きいです。 日本のBリーグは世界で一番勢いよく成長しているリーグだと見られているはずです。 キングスはこの10年、その先頭グループにいると思いますし、この成長をもっと加速させることができれば、沖縄の皆さんの誇りになれると思っています」
『沖縄を世界へ』の現在地を確認し、さらなる高みへ登るために。パース・ワイルドキャッツとの対戦は、琉球ゴールデンキングス、そして日本バスケットボール界が本格的に世界へ羽ばたくための、非常に重要な一歩となるだろう。
(文:湧川太陽)


