(文:湧川太陽、写真:照屋勇人)
FIBAバスケットボールワールドカップ2023アジア予選をはさみ、B1は12月4日から約2週間ぶりのリーグ戦を再開。
琉球ゴールデンキングスは、ホームで富山グラウジーズと今季3度目の対戦。
今季10月の富山ホームでの対戦はキングスが2連勝しているが、ホームでも勝利することが出来るか。
日本代表戦でも良い働きを見せた岸本隆一が、どんなプレイを見せてくれるかも注目だ。
覚醒する背番号14
キングスのスターティング5は、並里、今村、牧、エバンス、ダーラム
対する富山のスターティング5は、#5 ブライス・ジョンソン、#11 宇都 直輝、#16 松井 啓十郎、#24 ドワイト・ラモス、#32ジュリアン・マブンガ
オープニングショットは並里の3P。富山に打たされたと言えるオープンショットをしっかり決め切り、相手の出鼻を挫く。
富山は、スタートからゾーンディフェンスを敷き、オフェンスでは#24 ラモスを中心に攻撃。フィリピン代表でもあるラモスを守るのは今村。
直近の代表選考で、最後に日本代表メンバーから漏れた今村。ディフェンスで自身の価値を証明するべく、ラモスをしつこく守り、簡単に仕事をさせない。
試合は、エバンスが1Q残り6:35で2つ目のファウルを犯してしまい、キングスはエースのプレイタイムが制限される苦しい立ち上がり。
1Q残り5:15には、今村のペイントアタックからダーラムのダンクで会場を沸かせるも、富山もエースの#32 マブンガがゲームをコントロールしつつ、#11 宇都や#16 松井の得点でキングスに流れを渡さない。
だが、ここから岸本が躍動。日本代表でも存在感を見せたそのディフェンスで、沖縄アリーナの観客に火をつける。
1Q残り2:33、岸本の強いプレッシャーディフェンスで#11 宇都のターンオーバーを誘い、最後は岸本自身がフローターショットを決める。
このプレイでキングスがリズムに乗りかけたところで、富山の浜口炎HCはすかさずタイムアウト。
しかし、タイムアウト明けのディフェンスでも岸本が魅せる。
厳しいオフボールディフェンスで、#16 松井からスティールを奪う。
さらにルーズボールにダイブするボールへの執着心を見せ、その後のプレイでは満原のスクリーンを使ってこの日2本目の3Pを成功させる。
1Qは、29−21でキングス8点リード。
日本代表を経験して、選手として覚醒した感すら感じさせる岸本ショーの1Qだった。
ヘッドコーチの駆け引きが面白い2Q
2Qの得点も岸本からスタート。自ら獲ったリバウンドから一気にゴールを奪うコーストゥコースト。さらにステップバックからの難しいショットも難なく決める。
富山は1−3−1から2−3になる変則的なゾーンを敷いてくるが、キングスは動じない。的確にスペースを作りインサイドからゾーンを攻略。
富山の集中力が途切れ始め、ターンオーバーからフリッピンがファストブレイクで得点。
2Q残り6:32で37−23と14点差となったところで、富山の浜口HCがタイムアウト。
この日外国籍が2名しか使えない富山は、コート上の5人全員がどれだけハードにプレイ出来るかが生命線。緩みかけたチームを、浜口HCがもう一度締め直す。
タイムアウト後、富山は2−3ゾーンディンフェスを修正。足が止まりがちだったゾーン後方の3人が、キングスオフェンスに合わせてしっかりと足を使いプレッシャーを仕掛け、ディフェンスリバウンドを死守。
富山のディフェンスが引き締まり、徐々に流れが富山に傾きかける。
2Q残り2:41で39−32の場面で、今度はキングス桶谷HCがタイムアウト。
クーリーとエバンスがインサイド深くにポジションを取り、富山のゾーンの陣形を歪ませる采配。
桶谷HCは、自分たちのストロングポイントを、もう一度チームに思い出させた。
前半は、48−34で14点差でキングスリード。
bjリーグ時代から互いをよく知る、名将同士の駆け引きが面白い2Qだった。
勝利への予感が、勝負の空気を緩ませる3Q
3Qスタートの主役は牧。富山のボールマンに厳しくプレッシャーをかけ続け、富山のリズムを狂わせる。
さらにオフェンスでは、コーナーで集中力を切らさずシュートチャンスを待ち続け、狙いすまして3P成功。さらにトップからも3Pを決めてみせる。
牧の攻守における活躍もあり、59−36とキングスがリードを23点に広げる。3Q残り7:06で富山は早くもタイムアウト。
だがタイムアウト明けも、富山はキングスの厳しいディフェンスの前になかなか得点する事が出来ない。
3Q残り5:04、スコア61−38の場面。牧のドライブに対して、富山#5 ジョンソンが4つ目のファウルを犯してしまう。
富山唯一のビックマンと言っていいジョンソンのファウルトラブル、点差も20点以上。この時点で大勢は決した空気が、沖縄アリーナ全体に漂ってきた。
インサイドが手薄になる富山に対して、キングスはボールを左右に振りながら最後はインサイドで得点。
70−48で3Q終了。だがキングスは、簡単にボールを奪われたり、必要以上にボールを回す場面が見え始めてきた。
アリーナに漂う勝利への予感につられて、コート上の勝負の空気も緩み始める。そんな漫然としたプレイが気になった。
綻びを結び直す岸本の一撃
勝負を諦めない富山は#9 水戸 健史、#10 上澤 俊喜がディフェンスでハッスル。ダーラムへのダブルチームでボールを奪い、ファストブレイクを決めてスコアを70−53とする。
3Qから続くこの嫌な流れを断ち切るべく、4Q残り8:36でキングスがタイムアウト。
しかしタイムアウトでも流れを切る事は出来ず、富山はディフェンスへの集中力を持ち続け、徐々に点差を詰めてくる。
だがこの場面で、またしても岸本が流れを止める一撃。
4Q残り4:28、今や岸本のシグニチャームーブとも言える、大きなステップバックから3Pを決めてみせる。
78−58と点差を再び20点差に広げるこの一撃は、富山の最後の望みを断ち切るものとなった。
最終スコアは91−66。
キングスはベンチ入り選手全員が出場して、2桁得点を挙げた選手が6人。バランス良い攻撃で25点差をつけた。
だが試合後のコート上で、桶谷HCは開口一番で反省を口にした。
「点差こそついた試合だったが、4Qにモヤモヤとさせる試合を自分たちでしてしまった。明日はもう一度、点差ではなく内容でも、自分たちが満足できる試合をしたい。皆さんがもっともっと喜んでもらえるような試合をしたいので、明日も応援よろしくお願いします」
攻守での働きが目立った牧も、同様にチームの課題を語った。
「誰が出てもキングスのバスケットを体現できる、それが僕らの強み。今日はそれが出来なかった時間帯もあったので、明日もキングスのバスケットを見せていきたい」
ゲームを最後まで楽しんでもらうのが、僕らの責任
試合後の記者会見、ふたりのヘッドコーチはどちらも反省点を語った。
富山 浜口炎HC
(ジョシュア・スミスが出場出来ずインサイドが手薄な状況だったので)ゾーンディフェンスでクーリーを抑えて凌いでいく作戦だったが、クーリーに上手くインサイドでシールされてしまい、逆にゾーンの時間帯にインサイドでの失点が増えてしまった。
今日はターンオーバー12個犯してしまった。その数を一桁に抑えたいが、現状は許容範囲だと感じている。オフェンスリバウンドを合わせるとポゼッションが10以上変わってきてしまう。チーム全員で相手のオフェンスリバウンドを減らす事も含めて、相手にポゼッションを渡さないようにしていきたい。
ドワイト・ラモスはインサイドへアタック出来るし、今はまだシュートも決まっていないが、彼は決め切る力もある選手なので、周りとの連動性も含めて、積極的にプレイさせていきたい。
キングス 桶谷大HC
富山はジョシュア・スミス選手がいなくて外国籍2枚での戦いなので、正当な評価は難しい。
前半は相手のディスアドバンテージをしっかり突くことが出来た。ブライス・ジョンソンの早い時間帯でのファウルトラブルはこちらの狙い通りだった。
こちらもエバンスがファウルトラブルで流れに乗れなかったが、チームとしてはクーリーも戻ってきて、満原、小寺もよいバックアップしてくれたので、エバンスの穴を埋める事ができた。
後半、特に3Qの終わりから雲行きが怪しくなってきた。自分たちでターンオーバーしたり、トランジションでの連続得点、リバウンドから得点など、集中力を欠けるようなプレイが出てしまった。
正直、最後までお客さんが観て面白いと感じてもらえるゲームが作れなかったのは、チームとしての反省点。
4Qの最後まで観ていて楽しい、面白いゲームを作る事が僕らには求められている。
それを含めてゲームに勝つ事、強いチームを作っていく。今日を教訓として、最後までチームとして集中力を持ってプレイし続ける事をやっていきたい。
➖➖牧選手の活躍など、田代選手が抜けた穴を意識してプレイしているように感じる?
田代は攻守に渡ってバランスを取る役割がチームでずば抜けていた。その部分を、牧が率先してやってくれている。
今村も、ゲームメイクやディフェンスでの頑張りが見え始めているので、皆で足りない部分を補っていると思う。
選手それぞれの個性がしっかり発揮される事が、お客さんが観ていて楽しいバスケにつながると感じている。
全員が個人プレイに走らずチームとして戦う姿、一つ一つポゼッションをチームで守り戦う姿を、お客さんは見たいと思うので、それを40分間続けられるキングスにしていきたい。
➖➖マブンガを10得点と抑えたが、そこへの守りの意識は?
マブンガには得意なプレイをさせないように意識した。彼は右のドライブが得意だが、それをチームでいかに守るか。そこはしっかり出来た。
ただ、宇都のトランジションアタックや、ペイントに簡単にタッチされてしまった。富山のペイント内得点がこちらの思った以上に伸びているので、そこは修正したい部分。
➖➖並里選手は、天皇杯から動きのキレが出てきているが?
並里・岸本のワンツーパンチがキングスの武器になっている。コーがケガで抜けた期間で、この2人のケミストリーが上がってきている。コーも含めた3人でポイントガードを回して、さらに今日ラストは牧がポイントガード的な役割をしたが、ボールを持った選手それぞれがその役割が出来れば、チームとして熟成されてくる。
ここ最近の並里は、ベンチへ目配せしてくれたりして、ベンチの僕と良いコミュニケーションが取れている。短い時間帯でもナリトの一番良い時間帯でパフォーマンスを発揮してもらって、そして岸本がコートに入ってくる。この関係性がいいかなと思う。
➖➖3Q終わりにリズムが悪くなった理由、またその時に選手にどんな声をかけた?
リズムが悪くなった時、ベンチの中から声かけしていた。
ただベンチではなく、コートにいるメンバーが「勝った」ような思いで試合をしていたような感じがした。
ボックスアウトをちょっとミスしていたり、トランジションのコミュニケーションが取れていなかったり、スクリーンをしっかり掛けていなかったり。ファンダメンタルのちょっとした部分でズレが出来ていた。そういう部分をしっかりやろうと声掛けをした。
とはいえ、一度歯車が合わなくなると、なかなかチームとして戻すのが難しく、4Q中盤まで自分たちの良くないリズムでバスケットをしてしまった。
ロッカールームでも選手たちに
「4Qまでお客さんが観て『ゲームを最後まで見て良かった』『今日も楽しかった』と言ってもらえるバスケットをするのが自分達の責任だ。勝ったからOKではなく、『また観たい』と思ってもらう事が大事。3Qで『もう帰ろう』と思わせるバスケットをしない、そういう努力を僕らはしなくてはいけない」
と話して、選手達も大きくうなづいてくれたので、このチームはそれを目指していけると思っている。
「ゲームを最後まで楽しんでもらうのが、僕らの責任」
桶谷HCは、何度も何度もその言葉を口にした。
成績だけではなく、もっともっと大事な部分でチームは成長していると感じさせるゲームだった。