4Q 牙を剥くチャレンジャー
4クォーター、キングスは岸本、今村、フリッピン、エバンス、クーリーでスタート。
愚直に追い続けたチャレンジャーが、ついに牙を剥く。
4クォーター開始直後の残り9:24、千葉の緩慢なエントリーパスを、狙いすましていたフリッピンがスティール。
プレイを止める藤永のファウルを感じたフリッピンは、3ポイントシュートの状態でファウルを獲得。3本のフリースローを全て決める。
さらにその直後の残り9:16、同じようなエントリーパスをエバンスがスティール。必死で止める千葉ディフェンスからアンスポーツライクファウルを獲得。エバンスがフリースロー2本決めて、さらにフリッピンがペネトレイトからクーリーのディッシュパス。
キングスは4クォーター開始1分間の猛攻で、スコア 64−57 と一気に7点差まで縮める。
チャレンジャーの猛攻は止まらない。残り8:30、キングスは岸本の3ポイントでスコア 65−60 と5点差に詰め寄る。
しかしキングスの前に富樫が立ちはだかる。残り8:12、富樫はベンチからコートに戻ると、ハンドオフスクリーンからこの日5本目の3ポイント成功。スコア 68−60。
まだキングスのエナジーは衰えない。古巣との対戦に燃えるフリッピンが躍動する。
フリッピンは富樫への厳しいディフェンスでターンオーバーを誘うと、鮮やかなステップワークでドライブから得点。さらに直後の残り6:51、またしても爆発力あるドライブからカウントエンドワン!スコア 68-65 でついに3点差に迫る。
かつての仲間から強烈なカウンターパンチを受けた千葉はここでタイムアウト。大野HCは最後の勝負にでる。残り7分近くあるこの場面で、4ファウルのエドワーズとスミスをコートに戻して、自分達の攻撃力で流れを押し戻そうとする。
ミスが許されない状況のなか残り5:30、岸本が我慢してコーナーに落としたパスをエバンスが3ポイント成功。71−70とキングスはこの試合初のリードを奪う。
しかし大野HCが勝負を託したスミスがすぐに3ポイントを決め返す。73−71と千葉が再逆転。
フリッピンはまだ止まらない。ベースラインドライブで富樫からファウルを奪いフリースローで得点。
千葉も気迫を見せる。ショットクロックが無い状態でスミスがタフな体勢から3ポイントを成功させる。残り4:19で 78-75 と千葉のリードはわずか3点。
ここで集中力を高めるフリッピンがビッグプレイを決める。フリッピンはスミスの3ポイントをブロックしてそのままボースハンドダンクを叩き込み、78−78 と同点にする。
キングスのジュン安永トップチーム統括が、開幕前に我々に教えてくれた。
「フリッピンの凄さはその身体能力ではなく、勝負所での尋常ではない集中力」
まさに”Big-Time Koh” フリッピンはこの4クォーターだけで16得点を奪う大活躍。
しかしチャンピオンの不屈のプライド。富樫がすぐさま6本目の3ポイントを成功させてスコア 81−78 と押し戻す。
残り2:33、4ファウルのエドワーズがオフェンスファウルを取られてついにファウルアウト。そして同時にスミスもコートから去る。
しかしスミスがコートで消費してくれた4分9秒が、追い上げるキングスに重くのしかかる。
千葉は最後の力を振り絞る富樫をチームメイトが支える。ダンカンのオフェンスリバウンドや、原の3ポイントで得点。キングスに追いつく事を許さない。残り1:03でスコア 86-81 と5点差をつける。
キングスも必死の追い上げをみせる。1クォーターからチームを支え続けたダーラムが2本のフリースローを獲得。しかしダーラムはフリースローを2本とも外してしまう。
残り25秒、岸本がドライブで得点。86−83 と3点差。キングスはダンカンに対してファウルゲーム。
時間が無いキングス。桶谷HCはレフェリーのリプレイ検証中も、ファウルゲームのフリースロー中も選手を集めて指示を出す。
ダンカンはファウルゲームのフリースローを2本しっかり決めて 88-83 と5点差。残り20秒。
キングスはここで最後のタイムアウト。桶谷HCは作戦ボードを真っ黒にしながら指示を続ける。
タイムアウト明けのプレイ、ダーラムがオフェンスリバウンド争いからファウルを獲得。フリースローを2本決めて 88−85 と再び3点差。
残り16.1秒。千葉が最後のタイムアウトを取る。大野HCがクロージングにむけて指示を伝える。
千葉はファウルゲームのフリースローを西村が冷静に2本成功。直後に岸本が時間をかけずにドライブで得点。
ここで千葉にミスが起こる。エンドラインから西村へロングスローするも、ダーラムがそのボールをキャッチ。西村は慌ててファウルで止める。
残り7.9秒、90-87 で3点差。キングスに最後のチャンスが転がり込んできた。ダーラムがファウルラインに歩く間も桶谷HCが必死に選手に指示を出す。
千載一遇のフリースローだったが、ダーラムが1本目を外してしまう。90-87と3点差。残るフリースローは1本。
ここでキングスベンチは大きなミスを犯す。選手への指示、クーリーの投入、1本目を外したダーラムへの指示が錯綜して、レギュレーション違反でキングスは2本目のフリースローへのリバウンドポジションに入れなくなる。
結果、ダーラムは2本目のフリースローも外してレーンバイオレーションで千葉ボール。ここで勝敗は決した。
最終スコアは 92-87 で千葉ジェッツが勝利。2019年以来3大会ぶりの決勝進出を決めた。
BOXSCORE(千葉ジェッツ vs 琉球ゴールデンキングス) | 第97回天皇杯・第88回皇后杯全日本バスケットボール選手権大会公式サイト
試合後の記者会見、キングス 桶谷HC、千葉ジェッツ 大野HCは次のように語った。
琉球ゴールデンキングス 桶谷HC
一発勝負のゲームで千葉のホーム。レギュラーシーズンとは違うシチュエーションで、自分達にとっては勝っても負けてもプラスになる試合だった。
千葉のファーストパンチ、富樫選手の最初のシュートを気持ち良く打たせてしまい、そのままジェッツに流れを与えてしまった。
そのファーストパンチで自分達が冷静さを失い、プレイオフ同様にインテンシティの高いゲームにイライラして不必要なターンオーバーをしてしまった。ワイドオープンになっていてもシュートを躊躇したり、状況判断まで悪くなった。
3クォーター開始直後、富樫選手とダンカン選手で(並里)成とジャック(クーリー)のところを狙われて、結果として3クォーター始めだけで4本の3ポイントを与えてしまった。
最終的には接戦に出来たけれども、千葉の爆発力を出されて優位にゲームを進められてしまった。僕たちが試合巧者では無かったし、千葉は試合巧者で一発勝負のゲームをよく知っていた。
千葉の戦い方をスカウティングして選手も理解していたが、それでもこのような流れになる。まだまだ自分達がその立ち位置にはきていない。
これからプレイオフに向けてしっかり学んでいって、自分達のバスケットを一発勝負でも出来るようなりたい。40分間冷静に戦うことが一番重要。僕自身の采配も選手達と一緒に成長していきたい。
千葉ジェッツ 大野HC
選手達からは40分間でフィジカルさで負けないよう、琉球の強さに負けないようにという気持ちが見えたので良いゲームだった。
誰をどこでアタックするか、3クォーターの時間帯でも狙い所を見つけて、選手がそこをしっかり突いてくれた。
昨季CSセミファイナル第2戦で負けた時もリバウンドで負けてしまった。昨季CSで自分達が勝てたのはリバウンドやルーズボールを必死で追いかけたからだ。その泥臭いことを今日もやろうと伝えました。
(最後の追い上げを耐えられた理由は)リーグ戦と違って一発勝負で、どんな形であれ勝ちにいかないといけない。その集中力が出た。
選手にいちばん強調したのはトーナメントの一発勝負だという点。気持ちが強い方が勝つ。自分達が天皇杯を取るという強い気持ちをコートに置いていける方が勝つ。
そういう経験値を持った選手が最後にコートに立っていた。(富樫)勇樹や(西村)文男、最後に原ちゃんも3ポイントを決めてくれた。そういう経験を持った選手と、(大倉)颯太を融合させて良い経験を積ませることができたのは良かったと思っている。
琉球はペイントエリアを強調してきていたので、ビックマンだけに頼らずペリメーターの選手もコンタクトして自分達のボールにする。(佐藤)琢磨や原がひとつひとつ泥臭いことをコツコツやってくれた。
バスケの神は細部に宿る
2月6日の三遠戦後、今村は天皇杯への意気込みをこう語ってくれていた。
「自分達はまだ何も成し遂げていない。チャレンジャーとして千葉をアップセットしたい。」
キングスの天皇杯への挑戦は、チャンピオンである千葉に跳ね返された。
だが、実力が劣っていたとは思えない。チャンピオンをロープ際まで追い詰めた。
桶谷HCは「40分間冷静に戦う事が大事」と表現したが、過去に天皇杯3連覇を達成した千葉は、冷静に戦うべき40分間の勝負を何度も経験してきた。最後にその差が出てしまった。
4クォーター残り7.9秒、千載一遇のチャンスを目の前にして、キングスは選手コーチ全員が冷静になれず、自らそのチャンスを手放してしまった。フリースローが外れた事より、本当の勝負所でチームが冷静さを失い、最後のパンチを打つ事すら出来なかった。そんな細部への執念、こだわりこそがチャンピオンとチャレンジャーの差だった。
チャンピオンと互角に渡り合った経験は、必ずやチャレンジャーの血肉になる。
3ヶ月後に始まる日本一をかけた決戦に向けて、琉球ゴールデンキングスは成長を続ける。