9年ぶりにキングスへ復帰した桶谷大HCのチームビルディング「組織が成功を収めない限り、個は成功じゃない」

桶谷大

取材・文:大井聖路

〈Profile〉桶谷 大(おけたに・だい)。1977年12月23日生、京都府出身。2008年に琉球ゴールデンキングスのヘッドコーチに就任し、4シーズンで2度のbjリーグ優勝へ導く。その後、岩手ビッグブルズ、大阪エヴェッサ、仙台89ERSのヘッドコーチを歴任し、2021年にキングスのヘッドコーチに復帰した。

琉球ゴールデンキングス発足2年目、前年度bjリーグ西地区最下位だったチームをわずか1年で立て直し、一気に頂点へと導いた桶谷大ヘッドコーチ(HC)が沖縄に帰ってきた。

現在のチームカルチャーの礎を築いた桶谷HCが、キングスへの復帰を決めた理由は何なのか。また、新シーズンの抱負やコーチング・フィロソフィー(哲学)、沖縄を離れていた9年間のご自身の成長、未来のキングスを担うジュニア世代へのアドバイスなど、多岐にわたる質問に答えていただいた。(取材日:2021年8月26日)

――まずは、お帰りなさい。沖縄の印象はいかがですか?

ただいまです。前に住んでいた所は那覇だったので、那覇中心の生活で、当時は練習会場や試合会場も那覇や宜野湾が多かったです。今は沖縄市で生活して練習をしているので、自分も沖縄に戻ってきたつもりなんですけど、生活は新鮮ですね。

――桶谷さんが初めてキングスに来た時は、ホームコートにエアコンがなくて観客も汗だくでしたが、今は沖縄アリーナができましたし、だいぶ変わったのではないでしょうか?

本当にキングスが、僕が去っていた9年間でこれだけ成長したんだな。その象徴が沖縄アリーナだと思いますし、当時から木村(達郎)社長は『バスケット専用のアリーナを作る、体育館ではなくて、お客さん目線でバスケットが観られる会場を作りたい』っていうアリーナ計画をずっと言っておられて、それを何年かで形になってできたというのが本当にすごい。

木村さんを筆頭に、周りを支えてきた球団の人たち、球団を支えてきたファンの人たち、沖縄みんなで作り上げた建物なんじゃないかと思ってて、僕自身はとても感慨深いです。

――球団を立ち上げた当初から、木村さんや安永淳一取締役はずっとアリーナのことをおっしゃっていて、桶谷さんもその話はお聞きになっていたと思います。過程を見てきただけに、なおさら感慨深いのでしょうね。

僕が岩手に行ってから木村さんに設計図を見せてもらったんですけど、(沖縄に)いる時は設計図もできていなかったですし、まずどこにアリーナを建てるかというところ、そういう話しかなかった。そこで話していたことが、今こうやって現実として建物があるっていうのはすごいなと思いました。まだコートに立って指揮したことはないんですけど、アリーナに初めて入った瞬間、いろんな感情が込み上げてきました。

――その『いろんな感情』を言葉にするとしたら?

まず緊張感がありましたし、ここで指揮を執れるというワクワク感もありましたし、指揮を執るからにはちゃんと何かを残さないといけないというプレッシャーを感じました。

目次

チームカルチャーの再構築。「これは自分にしかできない仕事」

――9年ぶりのキングス復帰。どのようなオファーを受けて、何が決め手になりましたか?

僕自身、まずオファーをいただいた時に『まさか』という気持ちが最初にあって、『いやいやキングス成功してるし、4年連続で西地区1位になってるし、コーチを変える必要ないんじゃないかな』というのが第一印象でした。

球団からは、違うステージに行きたい。勝つだけじゃなくて、組織としてもう一回しっかりしたものを作りたい。沖縄アリーナができて、組織も大きくなって、昔と違って(日本)代表に入ってくる選手たちが来るようになって、だからこそもう一回土台となる部分をしっかりと作りたい。そのために必要なコーチ、ただ勝ってるだけじゃなくて、そういう所に長けているコーチ。あとはやっぱりキングスを一から作り上げてきた思いを理解できる人というところで、桶谷さんにやってほしいと言われました。

やることや考え方が僕と一致していて、やってほしいことが明確だったので、これは自分にしかできない仕事だと思いました。もちろん結果は出てくるんですけど、それよりももっと大切なものをしっかり作り上げたい。大きいアリーナがあって、そのアリーナを満杯にするといったミッションがあるんですけど、それを一緒に追い求められる仲間というところで桶谷さんにぜひやってほしいという話がありました。木村さんや安永さんと何回も話をして、その内容が理解できたので、(入団の)決め手っていうのは言葉というよりもビジョンが一番、オファーを受けた決め手だったんじゃないかと思います。

――キングスのチームカルチャーの礎を築いた桶谷さんに伺います。バスケットはメンバーが良ければ勝てるわけではないですし、個々の能力では劣っているかなというチームが上に行ったりする世界ですが、キングスはbjリーグでもBリーグでも常にポストシーズンを経験しているチームです。キングスのチームカルチャーのどういうところが良いと感じますか?

キングスのチームカルチャーで良いところは、チームバスケットを追求しているところというのが間違いなくあります。だからこそどんなコーチが来ようと、どんなメンバーでも変わらないところがあって、ケミストリーでチームの総合力が上がる。ケミストリーってなかなか科学的に証明されるものではないですけど、それが無形の力となって、どのチームよりも高められる。そういう文化がキングスには根付いているなと思います。そこを追求し続けて、僕たちが次の世代につなげていく責任があると思っています。

――志村雄彦氏(現・仙台89ERS社長)と桶谷さんは、仙台89ERSで社長とコーチという関係でした。また、2011年の東日本大震災では仙台が活動中止となり、当時選手だった志村氏がレンタル移籍でキングスに加入し、選手とコーチという間柄でした。桶谷さんがチームを移籍し、志村氏と離れることについてはどのような感情をお持ちですか?

タケ(志村氏の愛称)は仙台を背負って、バスケットを通じてエネルギーを人に与えられるようにって事をいつも考えているので、彼には、(仙台を離れることは)自分自身へのチャレンジでもあるし、これで終わりではないし、バスケット界をどんな所にいても盛り上げていけるように頑張ろうって、そういうことを言い合える仲なので、どこにいようがお互いを応援し合っています。

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