激動のシーズンを終えた琉球ゴールデンキングス、安永淳一GMが大事にする『キングスの文化』とは

琉球ゴールデンキングスの2023-24は激動のシーズンだった。Bリーグ優勝候補筆頭に挙げられながら、相次ぐ主力選手の怪我や、過密なスケジュールにも悩まされ上昇気流に乗れず、シーズン再終盤で西地区優勝を逃す。チャンピオンシップ(CS)では強敵を倒し3年連続のFINAL進出を決めたが、逆転でリーグ連覇を逃してしまう。

そしてオフにはライバルチームの大型補強が続く中、キングスは主力選手の退団が相次いで発表され、ファンにも動揺が走る。2024-25シーズン、キングスはどのように戦い、そして応援してくれるファンに何を見せていきたいのか。チーム創設以来キングスを支え続ける安永淳一GMにロングインタビューを行った。「ジュンさん」の愛称で親しまれる安永GMが語ったのは、ただ勝つことよりも大事にすべき『キングスの文化』だった。

(取材日:2024年7月11日)

琉球ゴールデンキングス 安永淳一GM

──キングスにとって激動の23-24シーズンが終わって暫く経ちましたが、シーズン全体を振り返ってどんなシーズンでしたでしょうか?

22-23シーズンにリーグ優勝を達成しましたが、2年連続優勝争いは簡単には出来ないと思っていました。Bリーグ開幕以降、リーグのレベルは飛躍的に上がってきています。昨今のバスケ人気という追い風を受けて、競技力も10年前とは雲泥の差です。リーグ優勝したとはいえチームがそのままでは連覇は出来ない。さらに良くなるためには守りに入らず、選手もスタッフにも新しい戦力が必要でした。

そうして挑んだ2023-24シーズンは、「あと1勝」に何度も泣かされた1年でした。西地区優勝、天皇杯決勝、Bリーグファイナル。すべて「あと1勝」というところまで行きながら、すべて跳ね返されました。

開幕前の 2023年8月31日の練習中、ジャック・クーリーが「膝が痛い」と言い、その症状は思ったより深刻で1〜2か月の離脱になると分かり、インジュアリーリストに登録することになりました。ジャックは誰にも置き換えることが出来ないチームの大黒柱です。本当にピンチの状況でしたが、幸運なことにアレックス・カークと契約を結ぶことが出来ました。

実はアレックスとは以前に沖縄県北谷町で僕が散歩中、偶然出会ったことがあって、その時から彼が沖縄を気に入ってくれていると感じていました。クーリーの膝の状況が発覚してから、すぐにアレックスにコンタクトを取り、連絡をして2週間足らずでチームに合流してくれました。ただあまりにも緊急だったのでアレックスもコンディションが100%ではなかった。

シーズン開幕からジャックの怪我から始まり、ようやく復帰したと思ったら、今度はヴィック・ローが膝の怪我でインジュアリーリスト登録となりました。

桶谷ヘッドコーチからしたら歯がゆかったと思います。ジャックもアレックスもヴィックも相次いで離脱してしまい、皆が揃って練習したことが無かった。特にアレックスは急な加入だったため、夏の大事な時期に一緒に練習出来ていなかった。もっと一緒に練習出来ていれば、と桶谷ヘッドコーチは何度も口にしていました。苦しみながらも何とかシーズンを走り続けましたが、「もし全員がフレッシュな状況でスタートができていたら」と歯痒さを感じたシーズンです。

シーズン中も色々なターニングポイントがありました。アレックスの帰化もそのひとつです。彼が日本国籍を取得出来るかどうかは、僕らには本当に分かりませんでした。ジャックの怪我に続き今度はヴィックが怪我をしてしまった。その時はSNS上で色々と言われましたが、実際はそうじゃないんです。わざわざそんな事はやりません。本当に不運が繋がっている中でのアレックスの帰化でした。

それでもアレックスの帰化が認められたと思ったら、彼の足の状態が悪くなり、プレー時間も制限して練習も限定せざるを得ない状況になりました。常に誰かが不在、100%ではない状況を抱えながらもシーズン最後まで戦い切った。そんな状況を考えれば、本当にチームとして成長できた出来たシーズンだったのかなと思っています。

西地区7連覇を賭けた4月の名古屋Dとのアウェー2連戦と、その直後のアウェー広島戦でも敗れて3連敗した時はチーム全員が傷つきましたし、とても悔しかった。誰が悪いわけでもないし、手を抜いているわけでもない。全員が一生懸命取り組んでいるが、結果として勝利に結びつかない。名古屋Dとのアウェー直前のキングス西地区優勝マジックは2。「直接対決で勝利して地区優勝を」と大きな期待を受けていたのに、その「あと1勝」の期待に応えられなかった。選手もスタッフも、誰かがプツンと集中力を切らしてもおかしくない、それくらいのストレスがチーム全体に圧し掛かっていました。

西地区2位で挑んだCSでも苦闘は続きました。CSクォーターファイナルでのアウェーA東京との激闘を勝ち抜いて自信をもって千葉Jとの戦いに挑んだのに、初戦は大差で負けてしまった。天皇杯決勝では48点差という大差で敗れ、CSセミファイナル第1戦では33点差で再び敗れてしまった。

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「皆で勝つ」のが『キングスの文化』

何度も何度も心を折られたシーズンでした。でも心を折られる度に、選手もスタッフもチーム全員が這い上がってくれた。あれだけ期待を受け、重圧がかかった中で結果が出せず、それでも何度も這い上がってくれた。本当にメンタルが強いチームでした。

その強さの根底は「なぜ僕らがこの仕事をしているのか」を桶谷ヘッドコーチはじめチーム全員がいつも言ってくれていたからです。「もし僕らが手を抜いたプレーをしてしまったら、見に来てくれるお客さんには僕らの良さは伝わらない。アリーナの最上階で見ているお客さんにも伝わるようなプレーをしよう」「僕らが頑張ることで皆に元気や勇気を与え、沖縄をもっと元気にする。皆で戦い、皆で勝ち、皆で悔しさを分かち合おう」

チームだけではなく、応援してくれるお客さんも一緒に苦しさを分かち合い、『それでも応援したい』と思ってもらい、そして勝利した時の喜びは言葉に表せないような素敵なものになる。その大事な根底を、選手たちも本当に理解してプレーしてくれています。それが僕らの強さに繋がっています。

──その厳しいチーム状況で戦い続け、そして西地区優勝を逃しても、誰も下を向かず、諦めなかった。そんなチームを見ていて、キングスが長年積み重ねてきた『文化』が本当の意味で根付いているという実感があったのでは?

その通りです。1人で孤立して戦ってしまったら苦しさに耐え切れずにギブアップしてしまうかもしれない。でも皆で戦い、皆で努力しているから諦めずにやれる。皆で励まし合うからこそ切れずに耐えきれると思うんですよね。選手もコーチも、一人ひとりが同じ気持ちになってSamePageで向き合うことで、苦しいシチュエーションも乗り越えることができたと思っています。

──昨季ヴィック・ローの新加入時にも安永GMは「ヴィックは凄いプレーを見せてくれるが、それ以上にチームを第一に考えるプレーヤーであり、キングスの文化にもマッチしてくれるはず」と話していましたが、選手を獲得する上でも『キングスの文化』に合致するかを重要視されているんですか?

選手はチームを形成する重要なパズルのピースで、それぞれに凸凹があります。正方形でもなければ長方形でもない。それぞれの凸凹がしっかり嚙み合わないと強固な形にならない。選手やスタッフ全員の凸凹がしっかり嚙み合ってきたら「皆で勝った」と思えるような良い勝ち方が出来る。得点をシェアしたとかプレータイムをシェアしたとかいう話ではなく「皆で勝った」という気持ちが全員に湧いてくる。それがキングスの戦い方です。

17年間のキングスの歴史で、得点王になった選手はいません。そしてBリーグ以降はシーズンベスト5に選ばれる選手もいません。地区優勝を6年連続、リーグ決勝は3年連続進出してもです。それくらいキングスは誰か一人に依存するチームではないのです。今チームを引っ張ってくれている選手は、間違いなく岸本隆一選手ですが、彼が試合で調子が出なかったらチームが負けるかと言えばそうではない。キングスは皆で戦い、皆で勝つからこそ、対戦相手からしたら、崩しにくい図太さを持ったチームだと思います。

「挑戦する気持ち」を大事にしたい

──23-24シーズン終了後、キングスには5人の退団選手がいました。特に田代直希、牧隼利、今村佳太の3選手は在籍年数も長く、中心選手と呼べるような選手でした。彼らが抜けたことで、キングスのファンから心配の声が大きく出ています。長年貢献した選手が抜けたとしても『キングスの文化』を繋いでいくことは出来ますか?

『キングスの文化・カルチャー』はチーム全員で作っていくものなので、誰かがいるからカルチャーが出来た、というものではありません。長年頑張ってくれた彼らのような選手が抜けたからキングスではなくなってしまう、そんな心配はいらないのかなと思います。

田代選手は大学時代に本当に素晴らしい結果を残しており、あれほどの選手がよく沖縄を選んでくれたと感激させられた逸材でした。しかし、彼が一皮むけて大きく成長するようなタイミングで、何度も大きな怪我があった。彼は一生懸命準備をしていたのに、本当に偶発的な怪我により試合にでることができなかった。不運が重なってしまったと思っています。そして彼はとても深く考えることが出来る人間でもあり、「キングスはこうあるべきです」と意見を伝えてくれる人間でもありました。田代選手とは長年苦楽を共にしてきたからこそ、本当に感謝の気持ちがあります。

同時に、チーム自体も若返らせたいという方針がある中で、田代選手の出番も限られてしまっていました。仮に契約延長しても、彼のプレータイムが無い試合が出てくる可能性がある。でも彼自身の体力・身体を見ていたらまだまだやれる。今後のキャリアを考えて、キングスを離れてもらった方がいいのかもしれないとも感じました。田代直希というひとりの人間としては大好きですが、彼のポジション自体もチーム内で激戦のポジションでもあり、契約オファーしないという判断をしました。

牧選手も田代選手と同じく、大きく成長できるタイミングで足首の怪我がありました。彼も優れた才能があり、コート上で無双できるような選手です。ただ今のキングスでの役割が確立されることが簡単ではなく、彼にとっては難しいシーズンを過ごしたとも考えました。

また、牧選手は、海外でやってみたいという気持ちが強い選手でもあり、シーズン中にも「海外ってどうなんですか?」というのはよく聞かれていました。牧選手の持っている才能やキャラクターを最大限に引き出せる環境に置くことが大事なのでは、と考えました。牧選手自身も、もっとチャレンジしたい、という考えが非常に強く、環境を変えるのも1つのオプションかもしれないと「次のページをめくりに行ってきます」と爽やかな別れでした。

──牧選手は特別指定選手でキングスに加入して、チームとしても中心選手として、それこそ岸本選手と並び立つような選手に成長して欲しいという期待もあったかと思います。そんな選手が退団することに、断腸の思いのような感情はあったのでしょうか?

5年間という期間は、節目としては良いのかなと思います。大器晩成や早熟などプロに入ってからもありますが、5年間あれば選手に与えられた環境でどれくらい伸びるかフィットするかは見えてくるはず。彼は怪我に悩まされてコンディションを上げることがとても大変だったと思うんですが、それも含めてキングスが授かった5年間です。彼は人一倍に物事を考えますし、彼のようなタイプの選手は本当に貴重です。僕としては、彼が新しいページをパッとめくって、彼が持つ明るさ、元気の良さで前に進んでくれればと願います。

──今村選手はもっとも退団リリースが遅く、複数年契約を解除したという発表もありました。退団までの経緯はどのようなものでしたか?

今村選手には、キングスのエースとしてこれからもプレーして欲しいと考えていたので、複数年契約を結んでいました。その彼が「海外に挑戦したい」という熱い気持ちを、勇気を持って僕に話してくれた時は驚きました。けれど、ショックではなかったです。

人は向上したいという気持ちを失くしてしまうと絶対に向上しない。現状維持は衰退であり、向上心は大切にすべきだと僕は思います。

今村選手は地元である新潟で頭角を現して、遠く離れた沖縄に来てキングスと共に大きな成長を遂げてくれた。日本代表から呼ばれるほどのトップ中のトップの選手に成長しましたが、これで終わりではないという彼の気持ちが、僕には伝わってきました。

契約についてお互いに話し合うなかでも、答えは決まっていたと思います。彼を説得して残りの契約を全うしてもらうのもひとつですが、それが今村佳太のプロ選手人生として正しいかどうかは分からない。成功するにしろ失敗するにしろ、自分自身で選ぶことに重みがあるのではないかと考えました。

──ファンからすれば今村選手の退団はショックの大きな出来事で、特に複数年契約を解除してまでの退団となれば「裏切られた」ような気持ちにもなるかと思います。キングスとしても契約と選手の意思とのせめぎ合いだったと思うのですが、そこは選手の意思を尊重したということでしょうか?

100%選手の意思を尊重しました。そして球団としては裏切られたとは感じていません。
彼の決断で契約解除にしましたが、キングスで何かが悪かったとか何かが気に入らないではなく、本当にチャレンジしたいという意思で決断したと思っています。名古屋Dとの契約の内容までは分かりませんが、もし彼が将来海外に挑戦することになれば、僕らとしてはキングスの選手が海外に羽ばたいてくれたと捉えますし、海外での経験や体験を、何らかの形で日本や沖縄に持って帰ってきてくれるかもしれない。そうなれば素晴らしいことです。

今村選手の退団により、キングスのチーム編成に関して誤算が生じたのは確かですが、そこには嬉しい誤算というのも当然あるはずで、それは24-25シーズンが始まってから分かると思います。

新加入選手と継続選手への期待

──新規入団選手についてもお聞きします。まず伊藤達哉選手について獲得経緯を教えて下さい。

伊藤選手は、名古屋Dでは齋藤拓実選手とのポイントガード2枚看板として戦い、ベンチから出てくる伊藤選手も斎藤選手と遜色ない働きをしていて、ある意味キングスのような層の厚いローテーションを組んでいました。

僕らが考える伊藤選手の役割は、彼のインテンシティの高いプレーでキングスに力を与えて欲しいです。そして、伊藤選手はピュアポイントガードです。彼はキングスにおいてパスファーストのメンタリティで、チームメイトを活かすためのバスケをしてくれると思います。伊藤選手が加入してチームが上手くいかなければ、他に問題があると疑いたくなる。それくらい素晴らしい選手が良いタイミングで加入してくれたと感じています。

──確かに伊藤選手は、昨季安定しなかったボールハンドリングの部分で的確な補強だと感じますが、173cmと小柄でありサイズ面での不安はなかったでしょうか?

伊藤選手はディフェンス面でアグレッシブにプレッシャーをかけることが出来るので、サイズ以上のプレーが出来ます。例えば、岸本選手が2番ポジションで伊藤選手が1番ポジションで同時にコートに立つ場合もあるかもしれません。それだけサイズ面での不安視はしておりませんし、伊藤選手はそんな事が気にならないくらい長所が多い選手で、昨季キングスに無かったものを多くもたらしてくれると期待しています。

──ケヴェ・アルマ選手についても伺います。22-23シーズンには当時B1の新潟にも在籍していましたが、どういう経緯で獲得に至ったのでしょうか?

アルマ選手はバージニア工科大学の頃からずっとマークしていた選手でした。ですが当時の判断としては、大学から直接日本でプロとしてどれだけやれるか、測りかねる部分がありました。例えば17-18シーズン、ハッサン・マーティン選手が大学から直接加入して活躍してくれました。マーティン選手はパワフルなプレーでダンクやリバウンドが持ち味で、役割はシンプルでしたからフィットし易かったです。しかし、アルマ選手は色々なことが出来る。ドリブルも出来るしシュートも上手いし、ディフェンスで必死に走って後ろからブロックも出来る。出来ることが多すぎて全てが10点満点の6.5点のような選手になってしまい、爆発的な力を発揮できないことを危惧して、大学卒業直後ルーキー選手の獲得には至りませんでした。

しかし新潟在籍時にキングスと対戦した時にやっぱり良い選手と感じましたし、その後の韓国リーグ在籍時にも、チーム2番手の外国籍選手ながらとても良いプレーをしていました。

アルマ選手はシュート力があって外からでも仕事が出来るのでジャック・クーリーとの相性も良いでしょうし、ドライブも出来きるパワーフォワードです。まだ25歳でプロ3年目と多くの伸びしろが残っています。新潟と韓国在籍の2年間はほぼフル出場で怪我も少なったです。ヴィック・ローはあの運動量ですから足に対する負担も大きいですから、若いアルマ選手にはプレー時間の面でもチームに貢献してくれると期待します。そういった色々な意味で良い補強だと考えていますし、長くキングスでプレーしてほしいと感じています

──7月現在、アルマ選手はNBAサマーリーグに参加して素晴らしい活躍を見せてくれています。

契約する際に「NBAサマーリーグに行ってもいいかな?」と言われました。もちろんキングスのキャンプが始まる前には沖縄に来るという前提ですの会話ですが、彼からすれば「もしサマーリーグで怪我をしてしまって来日するのは悪い」という考えだったと思うんです。でも僕は「もし行けるならぜひ行ってきたらいい」と伝えました。それでNBAフィラデルフィア76ersから声が掛かってサマーリーグに参加し、かなり良い活躍をしていますね。アルマ選手がこのプレーをキングスでも見せてくれたら、本当にサプライズを起こせる。彼の加入によってキングスは、選手層の厚みが大幅に向上します。それくらい良い選手ですね。

──継続契約した選手、特に日本人選手についてお伺いします。岸本隆一選手を筆頭に、小野寺祥太選手や松脇圭志選手、荒川颯選手、植松義也選手。さらに脇真大選手がルーキーシーズンとなります。彼ら日本人選手に期待することはありますか?

岸本選手は最年長ですが、昨年は全試合出場、そして平均得点はキャリアで2番目にベスト。選手としてのピークを長く続けていてくれて本当に頼もしいです。また、小野寺選手もアグレッシブかつベテランのプレーが出来るようになりとても頼りになります。

その中でもキングスとして磨き伸ばしていかなければいけないと感じている選手は、松脇圭志選手です。彼は対戦チームにとって脅威になる貴重な選手です。松脇選手には岸本選手にも負けないシュート力があります。僕は神様が与えてくれたシュート力だと思っています。その武器でキングスをリードして欲しいです。

そして、もう一人期待したい選手は、脇真大選手です。先ほどポイントガードの部分でサイズ面の懸念を言われましたが、193cmの脇選手が2番ポジションで出てくるのは、相手チームにとって恐ろしいことだと思います。彼はドライブでゴール下に怖がらずにガンガン入っていきます。23-24シーズン2月のA東京戦でも良いドライブを見せてくれました。もちろんあの時は特別指定選手の脇選手に対してA東京はノーマークだったと思いますので、今シーズンは同じようにはいかないとは思いますが、彼の持っている才能はかなりレベルが高いですし、ルーキーシーズンではありますが、間違いなくキングスの中心に成長する選手として期待しています。

もし今村選手が今季も在籍していたら、この2人のプレータイムは伸びてこないので、彼らに対する期待はより大きくなります。彼らがブレイクアウトし、チームとしてさらに成長するために、結果として良い編成になったと思えるシーズンにしていきます。

──外国籍選手では、ジャック・クーリー選手は24-25シーズンが在籍6年目です。本当に大黒柱として活躍してくれている彼にずっとキングスにいてもらうために、例えば帰化プランがあったりしますか?

いや、特にそのような話はしていないですね。ジャックは1年1年勝負したいと言ってくれて契約を繰り返しています。僕が仮にキングスを対戦相手として見た場合、やっぱり一番嫌な選手はジャック・クーリーです。彼が良いコンディションでプレーし続けてくれるのが非常に大切な事ですし、彼自身もこの1年に勝負をかけていると思います。

──7月11日現在では最大13人のロスター枠は全て埋まっていませんが、今後さらなる選手獲得はあるのでしょうか?

昨季までは渡邉飛勇選手がずっと怪我を抱えてしまっていたので、ベンチ枠の12人より1人多い13名で契約しておきたいという考えがありました。ですが、それでは全員が健康ならユニフォームを着ることができない選手が出てきてしまう。そして、ここ2年は植松義也選手、荒川颯選手が練習生から這い上がってきてくれました。僕はそうやって夢をつかもうとしている選手たちのチャンスも大切にしたい。ロスターの人数を増やし過ぎて、出番が回ってこない選手が出てきてしまうことも難しい判断でした。

もちろん怪我人が発生した場合の備えも必要です。そこは今後の特別指定選手や今季の練習生の成長も見ながら考えていきます。プロの世界ですし契約の世界なので何があるか分からないですが、今のところは柔軟性を持って11名でシーズン開幕に向かって走っていきたいと考えています。

『キングスの文化』があるから僕らは崩れない

──来季の目標についてお伺いします。もちろん目指すはリーグ優勝ですよね?

勝ち負けの目標というのももちろん大事ですが、『キングスらしさ』をもっと強調したキングスにならなければいけない。

僕らはもともと弱小チーム、雑草と呼ばれたチームであり、限られた人材、限られたリソースを上手く取捨選択して、最高の結果を残すことをずっとやってきました。その中でチームとして戦うことを大切にしてきた。リーグ優勝も経験して、周りから見ればビッグクラブと呼んでいただけるのかもしれませんが、僕ら自身がビッグクラブですと言ってしまったらもう終わりかなと思っています。そこは謙虚さ、ハングリーさを持ち続けなければいけないです

キングスの過去シーズンを見渡せば、年間のテクニカルファウル数の合計が2つ3つだったシーズンもあったはずです。しかし昨季のテクニカルは確か14個。テクニカルファウルは、やっぱり減らさないといけないと反省しています。皆で助け合って戦えていたら、皆で我慢して、皆で悩み考えることが持続できれば、個人がテクニカルファウルを吹かれることは減り、苦難を力強く乗り越えることができるかも知れない。そうすればテクニカルの数はもっと減らせるはずです。現場は本当に大変で、何か言わなければならない局面もあるとは思いますが、GMの数値目標はテクニカルファウルの数を限りなく0にするという点です。

そして、具体的には開幕ダッシュを仕掛けるのが重要です。ここ数シーズン開幕ダッシュが弱い感じがある。23-24シーズンは怪我もあり難しかったが、今季はまず開幕から相手を圧倒することにフォーカスしたいです。

日頃から選手やコーチとも話をしていますが、作戦がどうだったとかあのプレーがどうだったとか細かい話はあまりせずに、もっと大きなところから逆算して、こうしなきゃいけない、という話をします。

勝ち方が分からなかった時には、とにかく1つずつ勝ちを積み上げていけば最後に勝てると思っていましたが、勝ちはそう簡単には最後まで積み上がらない。西地区優勝しても何シーズンもファイナルに行けず、ファイナルに行き勝利するための戦い方がある痛感しました。大きな目標に届くために、今為すべきことを決めていくのが大事です。「高い勝率で第1シードで」じゃなくて、勝率は別にしても「チームとして勝つ」負ける時も「チームとして負ける」ことを積み上げていき、最終的に目指すべき場所に届くことが大事なのです

とはいえ、開幕直後から激戦必至の対戦カードが続き、簡単に開幕ダッシュが達成できるようなカーディングではないですが、だからこそ試合を観に来てくださるお客様にとっても見ごたえのあるゲームをお見せできると思います。

そして、昨季沖縄に持って帰ることが出来なかった天皇杯は本気で獲りにいきたい。100回目の開催という節目となる年でもありますし、絶対に沖縄が獲るという強い気持ちで挑みたい。

さらに来季もEASLに参戦できます。昨季はEASLの戦い方が分からず、特に異国のアウェーでキングスはお客さんで終わってしまいましたが、EASLではアメリカ人なら誰でも知っているジェレミー・リンのような選手とも対戦出来る。そういった機会を選手たちにも大切にして欲しいですし、面白いゲームを魅せていきたい。年間を通してアジア各国リーグの優勝チームと対戦できるだけでも面白いリーグです。EASLが使っているボールがB.LEAGUEと違ったりルールが違ったり、勝手が違うことはありますが、それも含めて大いに楽しみたいです。我々が海外で試合をすることで、現地の人々に沖縄を知ってもらう意味でも、我々プロバスケットボールチームが海外に行くことはとても意味があると思っています。僕らは沖縄を代表する気持ちでプライドを持って海外で戦ってきます。

最後に、僕らはキングスのバリュー(価値)を向上させることを大事にしています。キングスのバリューを上げることでお客様も見に来てくださるし、グッズも買って下さる。キングスのバリューを上げるためには何が必要なのか。それは僕らが大事にする『キングスの文化』を大切にしなければならない。積み上げてきた『キングスの文化』があるから勝てるのです。
沖縄には先人を大切にする文化が根付いているからこそ、沖縄が沖縄らしくずっと残っている。僕らも自分たちの文化や価値をしっかり固めて、その上にバスケットボールの戦略戦術が練り上げられて、選手が輝き、そこにパッと勝利の花が咲く。『キングスの文化』を大事にしているからこそ、僕らは崩れることはないと思います。


ジュンさんは、NBAニュージャージー・ネッツ(当時)のフロントとしてまたNBA球団で唯一の日本人フロントスタッフとして活躍。ジェイソン・キッドらと共に2年連続でNBAファイナルを経験し、NBAのレジェンドプレーヤーであるビンス・カーターもネッツで共に仕事をした。

そして、琉球ゴールデンキングスの創業メンバーとして沖縄に移り住み、今や沖縄の生活の方がずっと長くなった。NBAで12年間、琉球ゴールデンキングスではもう18年目だ。「NBAならいまはネッツよりニックスを見ていますね。DICE(ニューヨーク・ニックスACを務める吉本泰輔氏)も頑張っているしね」とかつての自身と同じくアメリカで挑戦する者への応援も忘れない。『キングスの文化』を真剣に語るジュンさんは、沖縄を愛し、沖縄とキングス全てに関わる人たちを大切にする。そして、かつて若いころの自身がそうだったように挑戦する心を大事にする。コートで戦う選手だけではなく、キングスに関わる全ての人々が『キングスの文化』を大事にしているのだと実感できたインタビューだった。

(写真・文:湧川太陽)

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この記事を書いた人

地元で開催されるFIBAバスケットボールワールドカップ2023に貢献するべく奮闘中!
趣味はスポーツビジネス関連の研究。note、Twitterもフォローしてくれると喜びます。

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