11月19日、牧 隼利が沖縄アリーナに戻ってきた。
右足首負傷により長期離脱していた琉球ゴールデンキングスの牧 隼利が、この日の滋賀レイクス戦からベンチ入り。牧が最後に出場した公式戦は2022年2月9日の天皇杯千葉ジェッツ戦。約9ヶ月ぶりの復帰となる。
力強いディフェンスと献身的なプレイ、そして優しい笑顔でファンに愛される牧の復帰を、沖縄アリーナのファンは待ち望んでいた。この日の沖縄市の気温は26度。外の暑さに負けない熱気が沖縄アリーナを包む。1ヶ月ぶりのホームゲームが始まった。
選択肢を奪うキングスの守備
キングスのスタメンは、#1 ジョシュ・ダンカン、#14 岸本 隆一、#30 今村 佳太、#34 小野寺 祥太、#45 ジャック・クーリー。
対する滋賀のスタメンは、#1 ケルヴィン・マーティン、#7 テーブス 海、#13 デイビッド・ドブラス、#14 柏倉 哲平、#32 狩野 祐介。
天皇杯や代表戦によるB1リーグ中断期間明けの試合、主導権を握ったのはキングスだった。
キングスはコートに立つ選手全員が強度の高い守備をみせ、滋賀の選手に自分達のやりたいプレイを許さない。
『キングスはディフェンスのチーム』と言われるが、彼らは複雑怪奇な守備システムを敷くわけではない。逆にリーグで最も基本に忠実なディフェンスチームだ。
バスケットボールのディフェンスの基本に『1線、2線、3線』という考え方がある。ボールマンへのディフェンスが1線、ボールマンに近い位置にいる選手へのディフェンスが2線、ボールマンから遠い位置にいる選手へのディフェンスが3線。ミニバスでも習うマンツーマンディフェンスの基本中の基本だ。キングスはこのディフェンスの基本を日本最高レベルの完成度でやり続ける。
ボールマンの進みたい方向へ行かせないように、1線は足を動かし続けて先回りをする。パスを受けようとする選手の前に、2線が腕を大きく広げてパスコースを消す。たとえ目の前のディフェンスを抜いても、3線が物凄い速さでカバーディフェンスに立ち塞がる。
キングスのディフェンス一つ一つのプレイがオフェンスの選択肢を奪っていき、ショットクロックが24秒に迫る。オフェンスは優先順位の低いプレイを積み重ねて『タフショット』に追い込まれる。リムに弾かれたボールは、ディフェンスリバウンドというバスケットボールで最も確率の高いプレイによってキングスのボールになる。
日本最高レベルの『1線、2線、3線』が、滋賀オフェンスのミスを誘発する。キングスは滋賀のターンオーバーを小野寺やクーリーが確実に得点に結び続けていく。
キングスは守備の強度を落とす事なく、最後まで滋賀を圧倒。最終的には滋賀のFG%を28%に抑え、72-51と21点差で快勝した。
試合スタッツ:Bリーグ 2022-23 B1リーグ戦 2022/11/19 琉球 VS 滋賀 | B.LEAGUE(Bリーグ)公式サイト
約9ヶ月ぶりにコートに立つ牧
1クォーター残り3:19、牧は約9ヶ月ぶりにコートに立った。「思ったより早くコートに戻って”これちゃった”」と試合後に語った牧。本人も自身のプレイを「簡単にプレイタイムを得られるとは思っていない」と言う通り、この日のプレイタイムは約7分間と、まだまだコンディションは完全ではない。
チームから離れている期間をどう過ごしていたか聞くと、牧は「こんなにバスケットボールから強制的に離れる時期は自分自身も初めて。いい意味でバスケの事を考えすぎず、週末になれば皆さんと同じようにバスケットLIVEを見ながら『みんなスゲーなー』みたいな感じで過ごしてました」と笑顔で話してくれた。
強制的にバスケのスイッチをOFFにされた日常から、まだ完全にバスケモードがONになっていないと語る牧だが、今季キングスが掲げる『ポジションレス』を最も体現できる能力を持つ選手でもある。牧自身も『ポジションレス』を体現するために「ボールを持った時にいかにズレを生み出すプレイが出来るか、得点につながる動きが出来るかを意識していきたい」と語った。
今季このあと、牧の優しい笑顔がどのくらい見られるか。キングスの成長のバロメーターになるかもしれない。
レベルの高い西地区でもがく滋賀レイクス
滋賀レイクスは11月16日にルイス・ギル前HCとの契約解除を発表。この日は保田尭之アシスタントコーチをHC代行とする新体制の初戦だった。
今季のB1西地区は非常にレベルが高く、この日の試合前の順位ではキングス含む4チームが7勝2敗で同率でトップを争っていた。そんななか滋賀はリズムに乗れず西地区最下位に沈む。
指揮官の交代、黒星が続く厳しい状況。だが急きょレイクス再建を任された保田HC代行は前向きだった。
「新体制になってよりチーム一丸となって戦っていきたい。自分達のチームの良さや課題を、一つ一つのポゼッションの中で丁寧に磨き上げていくということが当面の間は必要。自分達はここから上がっていく。」と語り、決して下を向いていない。
その言葉通り、保田HC代行をはじめとした滋賀コーチ陣は全員で協力し合い、一つ一つのプレイに対してベンチからコートで戦う選手に声をかけ続けていた。
滋賀にいま求められるものは、選手自身の『勝利への渇望』だ。
絶対に勝つ。コートの上では誰にも負けたくない。
プレイだけではなく、言葉で、ジェスチャーで、ベンチでの態度で、その渇望を表現する必要がある。それは観る者を惹きつけ、それが自分達の力に返ってくる。それが出来た時、滋賀は生まれ変わる。その土台は備わっているように感じた。
まだ10試合。残り50試合がどうなるかは誰にも分からない。自分達の未来をたぐり寄せるのは自分達自身だ。