今季の琉球ゴールデンキングスは桶谷ヘッドコーチの電撃就任、日本代表選手や帰化選手を含む大型補強を行いB.LEAGUE 優勝候補の呼び声も高い。そして2021年9月30日には、2021−22 B.LEAGUE 開幕戦をアルバルク東京と沖縄アリーナで戦う。
今季への積極的な動きと、2016年のB.LEAGUE 開幕戦と同じ対戦カードを沖縄アリーナで戦う意気込みについて、キングス創設当初からクラブを支える安永淳一取締役(トップチーム統括)にインタビューを行った。(取材日:2021年9月17日)
キングス新加入選手4人 それぞれの獲得経緯
── 今季の大型補強、新加入選手4人それぞれについてお伺いします。まずコー・フリッピン選手。彼の母親が沖縄県出身ということで、彼は「キングスは常に意識する存在だった」と記者会見でも話していましたが、キングスとして獲得の意思を伝えた時のフリッピン選手の反応はどうでしたか?
交渉自体は全て代理人を介して行います。フリッピン選手とは契約のサインをしてようやく直接話をしましたが、その時はいつから練習参加するとか具体的な話が多くて、彼の反応は直接は分かりませんでした。彼がインタビューで答えているのが間接的に聞こえてきて、喜んでいるんだろうなと察しておりました。
フリッピン選手本人は、沖縄を第二の故郷というより自分の故郷そのもの、自分の育ったところであるという気持ちを強く持っています。
最初に会った時も本人から自己紹介してくれたのですが、彼は高校生の頃、夏休みは沖縄県にお住まいの彼のお爺様のところに来る事が多くて、毎年夏休みは沖縄で過ごしていたそうです。ある時バスケットボールをしようと来た体育館が、キングスがその頃練習場にしていた体育館で、キングスの練習が終わった後にプレイしていたそうです。私は彼を覚えていませんでしたが(笑)
フリーエージェントになったので複数他のクラブからもオファーがあり、どのチームと契約しようか考えていて、ある先輩選手にも相談をしたが「沖縄が故郷で、しかもそのクラブがキングスなら何を迷う事があるんだ」と太鼓判を押されて、迷う事なくキングスを選んだそうです。
── 記者会見で彼は、記者から並里選手・岸本選手とどう競っていくかを問われ「競うというより、同じ沖縄県出身選手として見てほしい。キングスを代表する選手として見て欲しい」と話していました。
彼は競争心をすごく感じさせます。やはりアジア人としてアメリカで暮らすというのは、白人黒人社会の中で、常に努力し続けないとチャンスも貰えないし、置いてきぼりを食らうような環境にいたのでしょう。だから頑張らなければという気持ちが強くて、それが闘争心にも変わるし、誰かを気にかけるという優しさにも変わる。
本人と会って話をしてみて本当に驚いたのは、とても良い青年だと感じました。千葉とキングスの戦いを見て、プレースタイルからしても相当イケイケオラオラっていう感じの性格なのかなって思っていたんですが、実は本当に良い青年で、自分の子供にしたいくらい(笑)
── そのプレイ面ですが、昨季セミファイナルで千葉との対戦時、フリッピン選手の勝負どころで大活躍もありキングスは敗退しましたが、彼のセミファイナルでの活躍は今回の獲得に影響しましたか?
彼のプレーは、あの身長で凄いアピール度の高いダンクが出来たり、身体能力の凄さを取り上げられますが、実際よく見てみると、普通だったらちょっと手を抜くようなところで、彼はさらに頑張っている。ディフェンスでも、ルーズボールでも、みんながフッと気を緩めるような瞬間に、彼は逆により闘争心、戦う力をグッと引き出すように感じました。
キングスと千葉の戦いでも、フリッピン選手にボールを奪われるシーンや、簡単にパッと抜き去られるようなシーンもありましたが、それは彼のコンマ何秒単位で気を抜かず、相手の隙を狙う、常に自分が臨戦体制でいるからこそ。それが出来るというのがフリッピン選手を見て魅力的に感じたところですね。
また、フリッピン選手にシュートを決められてこちらは落胆しているのに、彼は笑ってもいない、ガッツポーズすらしない。本当に集中している。もちろん仲間を鼓舞するようなパフォーマンスも必要ですけど、喜んだ後に反動がきて必ず緩む瞬間がきます。彼のその普通ではない落ち着いた部分も魅力的に感じました。
── 続いて渡邉飛勇選手。彼は日本でプレイ経験が無く、2018年に日本代表の合宿に初招集された時に日本でも名前が出てきたような選手でしたが、キングスとしてはいつから彼の獲得を考えていましたか?
高校生でこのような選手がいる、という情報はアメリカから入っていましたが、ただどこまで出来るのかは分かりませんでした。渡邉選手が大学の時にプレイする映像も見ましたが、彼はケガをしてプレイ出来ない期間もあって、情報が本当に限られていました。
でも普通に考えて、「オリンピックの代表チームに選ばれる選手」というのはどういう意味なのかを考えれば、彼がどんな選手なのか分かります。日本代表の選考でもすごく考えられたと思いますし、これからの日本バスケットボールのある方向性とか、そういったものも示された人選だと思います。
こんなに既定の選ばれ方ではない日本代表選手は、今までいなかったのではと思います。日本の高校ウインターカップで大活躍したとか、大学インカレで大活躍したとか、そんな肩書の選手が多い中で、未知の選手である渡邉選手が選ばれたのは、やはり彼の持つ潜在的な能力の高さを表していると思います。
日本を背負って立つ選手かと言われたら、タイプ的には違うと思うんです。それは点を取るような選手や、あるいは帰化で頑張る選手かも知れません。彼はどちらかというと、代表チームの中でも3番目4番目の選手で、日本を背負って立つと言われたらちょっと言いすぎで、「不可欠な選手」という言い方が正しいと思います。
日本にとって不可欠な選手に成長すると強く感じましたので、であればその成長をより確実にできる環境を提供できるのが、琉球ゴールデンキングスではないか、我々クラブの中で彼を育てることが、彼にとって一番のプラスになるのではないか、と考えました。
── 小寺ハミルトンゲイリー選手、彼はアイラブラウン選手以来のキングスにとっての日本帰化選手ですが、どちらかと言うと得点面での活躍ではなく、縁の下の力持ち的なチームの周りを生かす選手です。キングスとしては獲得した理由は?
すでに渡邉選手を獲得が決まっていたので、小寺選手は(インサイド選手の数として)必ず必要という訳ではありませんでした。
今のB.LEAGUEには「帰化選手を取りたい」という風潮があるような気がします。では、キングスは、帰化選手やアジア枠選手を取るのか。特にこの選手が欲しいというのは無かったのですが、小寺選手に限っては桶谷ヘッドコーチが昨季、小寺選手の所属していた茨城ロボッツとの対戦時に、彼に相当苦しめられたと言っていたことが獲得の決め手となりました。
サイズがあり、かつ器用な選手がチームメイトを活かすことができれば、対戦相手からすればある意味嫌らしいし止めにくい。
逆に点を取る選手なら、シュートタッチの悪い日でシュートが決まらなければ全然怖くないですけど、小寺選手は本当に縁の下の力持ち的な働き、陰の働きが出来る選手に成長しています。日本でのプレイ歴も長く、自分の役割をはっきり理解しています。
キングスは、その彼の役割を考えているクラブであるという話をして、彼はすぐ沖縄に来たいと言ってくれました。小寺選手のチームメイトを活かす、あるいはチームのために犠牲になれるプレースタイルを非常に評価して獲得しました。
本当に苦しくなった時に、小寺選手がどっしり構えてくれている。対戦相手からすると一番嫌なのは小寺選手かもしれないです。
── アレン・ダーラム選手は、逆に攻撃力が魅力の選手で、秋田との練習試合では自らボールをフロントコートにプッシュするなど万能性も見せてくれました。彼の獲得がキングスに何を持たらすのを期待していますか?
ダーラム選手も小寺選手と同じくとても大人で成熟したプレイヤーです。日本での(2019-20シーズンに所属した)滋賀レイクスターズと昨季の新潟アルビレックスBBでのプレイをしてくれることを期待しています。
ダーラム選手の魅力は横の強さ、高さは無いが横に幅広いプレイを見せてくれます。頭上に落ちてくるリバウンドを取るのではなく、横に落ちそうなボールに手を伸ばして取れる。オフェンスでは、横の動きで相手ディフェンスを切り裂いて突破出来る。アンダーサイズですけどフィジカルに強い選手です。
彼が加入したことで、クーリー選手とエバンス選手と全然違うタイプ3選手が揃い、キングスの外国籍選手の幅が広がりました。コーチからしたら嬉しい悲鳴だと思います。チームとしての戦い方の幅が広がる。対戦相手からすると、クーリーをダブルチームやトリプルチームで止めたらキングスは破壊力が半減する、というような事が無くなり、どこを攻めたら良いのか簡単に分からなくなります。それがキングスの一番の強みだと思います。
しかし、戦い方の幅が出る分、チームがその幅を全て身につける時間がまだ取れていません。ダーラム選手もコロナの隔離期間があり、チームには20日前に合流したばかりなのでまだ十分な量のチーム練習が出来ていません。ダーラム選手が加入して戦い方に幅が広がるのは良い事ですが、それをチームで習得する時間が必要になります。そこは前半戦でいろいろなことを試さなければいけないでしょう。
でもシーズン最後には、多くの戦い方のカードを持っているから、ちょっとやそっとではキングスは倒せない、そんなチームに進化していると期待します。
チーム組織を作り上げるというのはテーマですし、そういう意味ではみんなでチームとして戦う、全てがチームのために、という方向に向くことで必要な力が出るのではないかと思います。