(文:湧川太陽、写真:照屋勇人)
3月16日(水)、B1リーグ第24節。琉球ゴールデンキングスは、ホームでシーホース三河と今季4度目の対戦。
キングスは強豪シーホース三河に今季2勝1敗。この日勝利すればBリーグ開始以降初めて三河にシーズン勝ち越す事になる。
3月5日からのアウェー5連戦を終えて、この日は2月6日以来のホームゲーム。B1リーグの連勝記録は3月11日の島根戦で敗れて20連勝でストップしたが、久しぶりのホームの観客の前で勝利したいところだ。
だがこの日は、三河の底力と、自分達の迷いに苦しめられる事になる。
三河が仕掛けた『罠』
キングスのスターティング5は、#3 並里 成、#4 コー・フリッピン、#30 今村 佳太、#13 ドウェイン・エバンス、#45 ジャック・クーリー。
三河のスターティング5は、#4 細谷 将司、#9 アンソニー・ローレンス Ⅱ、#19 西田 優大、#32 シェーファー アヴィ幸樹、#54 ダバンテ・ガードナー。
今村と西田のマッチアップは、2月のFIBAワールドカップアジア予選を日本代表のチームメイトとして共に戦った2人。新たな日本代表対決だ。
西田が力強いドライブインで今村を振り切りレイアップを決めれば、今村はショットクロックが無い状況で冷静にフローターショットを決め返す。見応えのあるマッチアップだった。
試合序盤はキングス、三河ともにシュートが好調。互いに高確率でシュートを決める。
三河は日本代表選手でもあるシェーファーのリバウンドでの頑張りが光る。シェーファーは1クォーターだけで4つもオフェンスリバウンドを獲得。三河のセカンドチャンスが増えてキングスはなかなかリズムに乗れない。
ディフェンスでも三河はキングスに迷いの種を植え付ける。この日のスタメンである並里、フリッピンがボールを持ちピックアンドロールを仕掛けると、三河の守備はスクリーンの下をくぐる動き、所謂アンダーを多用した。
中間距離からのシュートが多くなるキングス。シュートは高確率で決まっていたがそれは『打たされたシュート』でもある。キングスは本来攻めるべきポイントではない場所で得点していた。
シェーファーがオフェンスリバウンドを獲得できているのも、クーリーがマッチアップするガードナーが敢えて高い位置でプレイして、クーリーをゴール下から引きずり出しているからこそ。
三河はキングスの弱点をうまく顕在化させるような『罠』を数多く仕掛けてきた。
前半のスコアは43−36でキングスが7点リード。得点上はキングスが優位に試合を進めているように見えていたが、三河の術中にはまっているような前半だった。
『負けない』キングス
後半3クォーターは、両チームとも1クオーターと同じスターターで開始。ファウル2つのフリッピンに代わりローレンスには今村がマッチアップ。今村はディフェンスでも頼れる存在になりつつある。
キングスは前半の反省を活かし、今村を中心に積極的にペイントエリアに攻め込む。対する三河も前半と異なりガードナーのローポストアタックを増やしてくる。
キングスはセカンドチャンスを奪うものの、狙いすぎているのかラインクロスでターンオーバーを犯したり中々リズムに乗れない。
4クォーターに入っても、キングスの動きには迷いが見え隠れする。オフェンスでボールムーブメントを意識するあまりパス優先になり、三河ディフェンスに狙われてしまう。
4クォーター開始直後から4連続ターンオーバーを犯すキングス。残り8:15で桶谷HCはタイムアウトを取り、選手達の考えをもう一度ひとつにまとめようとする。
三河の流れは続く。タイムアウト明けの残り8:04 ユトフが3ポイント成功で58−59と三河が逆転に成功。
しかし今季のキングスはここからが強い。ダーラムのスラムダンクで60−59とすぐに再逆転。ダーラムはこの試合14得点、6リバウンド、4アシストとチームを支え続けた。
そしてキングスは、リーグ首位を独走する原動力であるディフェンスで三河に流れを渡さない。
キングスは4クォーターだけで8つのターンオーバーを犯すも、残り8:15のタイムアウト以降は三河にターンオーバーからの得点を許さなかった。自分達のオフェンスのミスを、自分達のディフェンスで取り返したのだ。
B1リーグ記録の20連勝中も劣勢な状況は何度もあった。しかしキングスは圧倒的な力で相手をねじ伏せてきたというより、自分達の流れではない時間帯もディフェンスで踏ん張れる『負けない』チームに成長した。
三河の4クォーターFG成功率を35.3%に抑えたキングス。最終スコアは76−68とキングスが苦しみながら勝利を手にした。
『研究される立場』をどう乗り越えるか
試合終了後記者会見の冒頭、キングスの桶谷HCは平日ゲームにも関わらず沖縄アリーナに詰めかけた4,000人以上のファンへの感謝を口にした。
そして指揮官は、勝利したもののターンオーバーが多くなり、快勝とは言い難い試合の反省を口にした。
琉球ゴールデンキングス 桶谷HC
──今日の試合の総括
島根戦のゲーム1が終わった後、チーム全員でボールムーブメントを徹底しようと強く伝えた。
しかし今日はボールムーブメントを意識するが故のターンオーバーが多くなってしまった。ボールムーブメントを先に考えてしまい、ペイントにタッチする前にボールを離して相手にパスカットされてしまう場面もあった。
ディフェンスも試合の出だしではギャンブルが多く、遂行力が低いディフェンスになってしまい、相手に「今日はいける」と思わせてしまった。
ボールムーブメントを意識しつつ、オフェンスでもディフェンスでも自分達が『Same Page』でプレイするようにしたい。
──三河はキングスをよく研究してきた印象で、今後も相手に研究されてくるがそれをどう乗り越えるか。
負けた島根戦も相手がアンダー(引いて守る)を多く選択して、こちらはジャンプシュートを打っているものの、僕らのシューターが8分間で1回しかボールを触れていない状況が起きていた。それでは決まるシュートも決まらない。
相手がアンダーを多用してきた場合、逆に相手がアンダーを選択しない選手でどうペイントタッチをするシチュエーションを作っていくか。それが今後のキーになってくる。
今日はその意識が『Same Page』ではなかった。今日のような『打たされる』シチュエーションになった場合は、どう他の部分で崩していくか。誰でゲームを作っていくか。チーム全員が『Same Page』で戦っていきたい。
チーム全員が『同じページ』をプレイする
桶谷HCはシーズンが進むにつれて『Same Page』というキーワードを口にする機会が多くなった。
『Same Page』
つまりバスケットボールにおいて、ゲームに勝つためにチームが何をするべきかを記したPlayBookの『同じページ』をチーム全員が理解している事を意味している。
単なるフォーメーションの話ではなく、チームが本当の意味で一つの意識を持ってプレイする。
チーム全員が『同じページ』をプレイする。それが桶谷キングスの完成形。
アイシン時代から長く日本バスケ界を引っ張ってきたシーホース三河。その強豪チームに3勝1敗と初のシーズン勝ち越しを決めたこの試合後のマイクパフォーマンスで、桶谷HCは「優勝を目指して突っ走るので応援よろしくお願いします」と締めくくった。
筆者の記憶が確かなら、指揮官が『優勝』という言葉をはっきり使ったのはおそらく初めてだ。
チームだけではなく、ファンも含めてキングスに関わる全員が『優勝』という『Same Page』を見ながら突っ走る時期が近づいてきている。