9月4日(木)、プレシーズンゲーム 琉球ゴールデンキングス vs 昌原LGセイカーズ(韓国KBL)が沖縄サントリーアリーナで行われ、93-69でキングスが今季初の実戦を勝利した。


今季新チームの初陣。単なる勝敗の結果以上に、今シーズンのキングスの行方を占う上で非常に興味深い、数多くの「兆候」を示していた。新加入選手のインパクト、既存戦力の覚醒、そしてチームが試みる新たな戦術の可能性を深掘りし、キングスが今季「ブレイクスルー」を果たすための鍵はどこにあるのかを考察する。
新加入・佐土原遼の衝撃的なデビュー
プレシーズン初戦において、最も鮮烈な印象を残したのが新加入の佐土原遼だった。彼のパフォーマンスは、単に「活躍した」という言葉では収まらない、チームのオフェンスに新たな次元をもたらす可能性を秘めていた。
- 圧倒的な得点力と多様な攻撃パターン
- 内外から攻められる万能性
- 戦術の核としての期待
佐土原は試合開始早々の1クォーターだけで8得点を挙げるなど、序盤からチームのオフェンスを牽引していた。特筆すべきは、その得点パターンの多様性だ。
屈強なフィジカルを活かしたポストアップに加え、俊敏性を感じさせるドライブからのロールターンでも得点を記録。ゴール下での力強いフィニッシュだけでなく、多彩なスキルで相手ディフェンスを翻弄できることを証明した。これは、彼が単なる得点源としてだけでなく、チームのオフェンスにおける新たな「軸」になる可能性を感じさせた。

佐土原の価値はインサイドプレーに留まらない。3クォーターには3ポイントも決めており、アウトサイドからも脅威となれることを示した。内外から攻撃力高い佐土原の存在により、相手ディフェンスは的を絞ることが困難になり、他の選手がフリーになる好影響をもたらす。
コーチ陣が彼に寄せる期待の大きさは、その起用法からも伺える。試合中、外国籍をコートに一人にするオンザコート1の時間帯を作り、佐土原を4番ポジション(パワーフォワード)で起用する場面も見られた。天皇杯やEASLというBリーグとは外国籍選手の出場ルールが異なる試合において、佐土原の持つ多彩な攻撃能力を最大限に引き出そうとする戦術的な意図の表れだ。プレシーズン初戦でこれほどエース級の働きを見せたことは、チームにとってもファンにとっても、今シーズンのキングスに対する期待を大きく膨らませるものだった。

ケヴェ・アルマの覚醒とオールラウンドな支配力
昨季から在籍してキングス2年目となるケヴェ・アルマもまた、この試合で「覚醒」と呼ぶにふさわしい、圧巻のパフォーマンスを披露した。特に試合を決定づけた第4クォーターは、まさにアルマの独壇場だった。
- 「アルマのショウタイム」- 第4クォーターの圧巻のパフォーマンス
- 攻守の要としての存在感
- チームを次のレベルへ導く存在
4クォーターの彼のプレーはまさに「アルマの時間帯」だった。まず相手のターンオーバーからこの日2本目となる豪快なダンクを叩き込むと、直後には荒川颯のスキップパスからベースラインドライブで得点。さらにスティールから再びダンクを決める。お次は3ポイントシュートを沈め、とどめには再びスティールからの速攻で、今度は荒川颯へアシストパスを供給。

わずか数分間で、得点、アシスト、そしてディフェンスの全てにおいて試合を完全に支配した。アルマの貢献はオフェンスだけに留まらない。1クォーターには、LGのエースであるカール・タマヨとの1on1の場面で強烈なブロックショットを見舞い、ディフェンスでの存在感も際立たせている。相手チームのエースとマッチアップしても、攻守両面で優位に立てることを証明した。
オフェンスでは勝負どころでバスケットカウントや3ポイントを沈める決定力を持ち、ディフェンスでは相手のキープレイヤーを封じ込める。このオールラウンドな能力は、チームにとって計り知れない価値を持つ。
アルマのこの試合での活躍は、彼がチームを一段上のレベルに引き上げるポテンシャルを秘めていることを示している。キングス1年目だった昨季は、チームでの役割への順応やチャンピオンシップ最終盤での怪我もあり、アルマのポテンシャルが最大限発揮されたとは言い難い。彼の攻守にわたる支配的なプレーがシーズンを通して継続されれば、キングスの戦術的な幅は大きく広がり、より高い目標を目指す上での強力なエンジンとなることは間違いないだろう。

チームに新たな風を吹き込む力 – 新戦力の融合と戦術的試み
佐土原に加え、同じく新加入の小針幸也も短い出場時間の中で強烈なインパクトを残した。また、コーチ陣が試した柔軟な選手起用も、今季のキングスを読み解く上で重要なポイントだ。
- 新戦力の即戦力ぶりとチームの活性化
- 柔軟なラインナップという新たな試み
小針は、コートイン直後から持ち味のスピードを活かしたドライブで得点。さらに特筆すべきは、ディフェンスから流れを創出するプレーだ。激しいプレッシャーでスティールを奪うと、そのまま速攻の起点となり、チームに新たなエネルギーと勢いをもたらした。小針の加入は、キングスのディフェンス強度を高め、トランジションゲームを加速させる起爆剤となる可能性を感じさせる。

キングスの桶谷大ヘッドコーチも、今季は相手のターンオーバーを誘発してより攻撃回数を増やす意図があることを説明した。「今季はトランジション(速攻)をもう少し増やしたい。その意味では今日のファストブレイクポイント20得点は良かった。リバウンドは以前からうちの武器だが、今季はよりスティールを増やしていきたい。ジャック・クーリーがチームに戻ってきてまた調整が必要になるが、昨季の課題だった部分を少しでも向上させていきたい」
この試合でコーチ陣は、いくつかの興味深いラインナップを試している。前述の「オンザコート1での佐土原の4番起用」に加え、2クォーターには佐土原、アルマ、ヴィック・ローの3人を同時にコートに立たせるラインナップもテストした。これは、リバウンドやインサイドでの強みを維持しつつ、ヴィック・ローを3番ポジションでより自由にプレーさせる場面を想定した戦術オプションと考えられる。
佐土原は試合後の記者会見で「特にヴィックとは一緒に出るタイミングも多くなると思いますし、(昨季所属のFE名古屋でも)アーロン・ヘイリーがウイングのポジションにいた。ウイングの外国籍選手と一緒に合わせてプレーすることは、自分の得意としている事でもあるので、ヴィックともコミュニケーションをとりつつキングスのバスケットを作り上げていきたい」と4番ポジションでプレーすることを示唆した。
プレシーズンの段階でこうした多様な組み合わせを試していることは、チームがシーズンを通して、対戦相手や状況に応じて柔軟に戦い方を変えられるチームを目指している証拠と言えるだろう。
岸本隆一の復帰がもたらす「数字以上の価値」
この試合には、もう一つ非常に大きな、そして象徴的な出来事があった。チームの魂とも言える岸本隆一選手の怪我からの復帰だ。
- 待望の復帰と劇的な3ポイントシュート
- チームの精神的支柱としての存在
怪我からの復帰戦となった岸本選手は、1クォーターにコートに立つと、いきなり代名詞である3ポイントシュートを成功させた。岸本がステップバックで3ポイントを決めた瞬間、アリーナが揺れるほどの大歓声に包まれ、いかにファンが待ち望まれていたかが分かる。

岸本自身も「入場時にも多くの歓声をいただけて、そんな色々な方々の気持ちに少しでも応えられたら」と復帰の喜びを語った。
岸本の価値は、得点という数字だけでは測れない。彼がコートにいるだけで相手ディフェンスは彼のシュートを警戒せざるを得ず、それが味方選手のためのスペースを生み出す。彼の存在は、オフェンス全体の潤滑油として機能する。さらに重要なのは、彼の存在がチームに与える精神的な影響だ。この劇的な復帰弾は、彼自身の自信を回復させるだけでなく、チーム全体の士気を最高潮に高める一撃となった。彼の完全復活は、キングスが厳しいシーズンを戦い抜く上で、最も重要な要素の一つとなるだろう。

今季キングス「ブレイクスルーの鍵」は何か
このプレシーズン初戦は、今シーズンのキングスが多くのポジティブな要素を抱えていることを明確に示している。
佐土原、小針といった新戦力は即戦力として期待以上のインパクトを与え、アルマは攻守の柱としてさらなる成長を遂げ、そして精神的支柱である岸本が帰ってきた。さらに、コーチ陣は多様な戦術オプションを模索し、チームの可能性を広げようとしている。
これらの有望な要素の中で、今シーズンのキングスを最も大きく飛躍させる「ブレイクスルーの鍵」はどれなのだろうか。この初戦は多くの可能性を見せてくれた。これらの要素がシーズンを通してどのように融合し、化学反応を起こしていくのか。キングスの新シーズンから目が離せない。

(文・構成:湧川太陽 写真:Hamataro)