「(千葉との試合は)なかなか難しいですよね。」
「千葉に勝つことが僕たちにとって本当に大事なのか。残り試合をチャンピオンシップ(CS)のためにどう戦うのか、僕自身がもう一度じっくり考えて整頓したい。そして選手達に共通認識を持ってプレイさせたい。」
これは千葉ジェッツ戦の3日前、アウェー名古屋戦後の記者会見にて、沖縄アリーナでの千葉戦にどんなモチベーションで挑むのか質問した時に、キングス桶谷HCから出た言葉だ。
今季B1レギュラーシーズンを圧倒的な成績で勝ち続けてきたキングス。西地区優勝、そして第1シードとなるリーグ最高勝率も手にした。この後の試合はいわば消化試合だ。
しかし指揮官の頭の中には、目指すべきリーグ優勝から逆算した時に、返しておくべき『借り』があった。
2月9日に船橋アリーナで開催された第97回天皇杯準決勝、キングスは千葉と対戦して敗北。だが敗北だけが『借り』ではない。天皇杯をホームで戦った千葉ジェッツは、試合スタートから激しいディフェンスとエース富樫の攻撃力でキングスに『ファーストパンチ』をお見舞いした。
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キングスが2戦必勝のCSを勝ち上がる為には、ファーストパンチの『借り』だけは返しておかねばならない。指揮官はきっとそう考えたはずだ。
キングスに『借り』を植え付けた相手が、今季初めて沖縄アリーナにやってくる。観戦チケットはすでに完売だ。
5月4日(水)、琉球ゴールデンキングスは、沖縄アリーナで千葉ジェッツと対戦した。
天皇杯の借りを返す『ファーストパンチ』
キングスのスターティング5は、#14 岸本 隆一、#30 今村 佳太、#4 コー・フリッピン、#13 ドウェイン・エバンス、#45 ジャック・クーリー。
千葉のスターティング5は、#2 富樫 勇樹、#31 原 修太、#14 佐藤 卓磨、#33 ジョン・ムーニー、#1 ジョシュ・ダンカン。
先に仕掛けたのはチャンピオン千葉。173cmの岸本に対して197cmの佐藤をマッチアップさせてきた。千葉ディフェンスの要である佐藤でキングスの得点源を潰す作戦だ。
しかし、それは千葉のエース167cmの富樫にもディフェンスで大きなミスマッチが生じる事になる。キングスはすぐさま富樫にマッチアップされているフリッピンにボールを集める。キングスがシーズンを通して積み重ねてきた『正しい状況判断』が発揮された場面だ。
フリッピンが富樫をオフェンスで攻め立て、千葉ディフェンスに混乱が生じる。キングスはそれを見逃さず、試合開始3分で一気に9 – 0のラン。
相手の奇襲にも冷静に対応し、自分達の強みを最大限に活かすキングスのファーストパンチ。桶谷HCがこの試合に求める『CSのためにいかに戦うか』を、コート上の5人がしっかりと表現してみせた。
古巣との対戦に燃えるフリッピンはさらに躍動。得意のドライブインを中心に1クォーターだけで10得点を挙げる。
桶谷HCは「試合前に選手達には『最初のスタートでガチンコ勝負だ』と伝えていて、正直僕はそれが出来たらこの試合満足だった」と試合後に漏らした。それほど天皇杯で受けた『借り』を返しておきたかったのだ。
そしてコートの選手達は、超満員の観客の後押しを受けて期待以上の結果をみせた。まさにホームコートアドバンテージを感じさせるキングスのファーストパンチだった。
千葉はペースを取り戻すために、キングスにもう一つの課題を突きつけてきた。1クォーター残り2:20 途中出場の#6 赤穂 雷太と#34 クリストファー・スミスを前線に置く3-2ゾーンを敷いてきた。196cmの赤穂と193cmのスミスでキングスのボールムーブメントのリズムを狂わせようとする。
さらに千葉は1-2-2オールコートプレスから、並里がフロントコートに入った瞬間にダブルチームでボールを奪って一気に得点。
1クォーターは21 – 20でキングス1点リード。キングスは天皇杯の借りを返すファーストパンチを繰り出しつつ、ゾーン対策という別の課題も突きつけられた。
リバウンドで圧倒してポゼッションゲームを制する
2クォーター、キングスはリバウンドで千葉を圧倒する。
キングスの大黒柱ジャック・クーリーを中心にディフェンスリバウンドを死守。オフェンスリバウンドにも積極的に絡みセカンドチャンスから得点を重ねる。キングスは2クォーターで16リバウンド、うちオフェンスリバウンドは6つも奪った。
ディフェンスリバウンドからのアーリーオフェンス、セカンドチャンスポイントで徐々に自分達のリズムに持ち込むキングス。
この2クォーターで輝いたのは、キングスの日本人ビッグマン#32 満原 優樹。この試合は#7 アレン・ダーラムがコンディション不良で欠場。満原は千葉の#1 ジョシュ・ダンカン、#33 ジョン・ムーニーという外国籍ビッグマン相手にマッチアップ。簡単にプレイさせないようにローポストで身体を張る。
決して多くない出場機会のなか、いつ呼ばれてもチームに貢献出来るように準備を怠らない。簡単な事ではない。沖縄アリーナのファンもそれを理解している。身体を張ってディフェンスする満原を大きな拍手で後押しする。
2クォーターの満原のスタッツは3ディフェンスリバウンド。チームに貢献した価値あるリバウンドだった。
2クォーターは45 – 32で終了。ポゼッションゲーム(攻撃回数)で上回ったキングスが13点リードする。
作戦 ドウェイン・エバンス
3クォーター、キングスはスターターを入れ替えてくる。#3 並里、#4 フリッピン、#30 今村、#13 エバンス、#2 小寺 ハミルトンゲイリーの布陣。
キングスはエバンスが積極的にシュートを放ち、3クォーターだけで3ポイント3本含む13得点の大活躍。だがこれはエバンス一人の力ではなかった。
エバンスがより効果的にアタック出来るように、並里や小寺など他の4人が適切なポジショニングを繰り返し、オフボールスクリーンに何度も身体を張るという、チーム全体の自己犠牲の成果だった。
さらに4クォーターもエバンスの活躍は続く。エバンスは4クォーターだけで10得点。最終的には30得点、FG確率75%、FT確率88.9%とほぼ完璧な内容だった。
キングスは粘る千葉を振り切り、最終スコア92 – 84で勝利。CSを見据えた上での課題に取り組みつつ、チーム全員が同じ方向を向いて戦った結果の快勝だった。
試合スタッツ:Bリーグ 2021-22 B1リーグ戦 2022/05/04 琉球 VS 千葉 – B.LEAGUE(Bリーグ)公式サイト
大活躍のエバンスは試合後のマイクパフォーマンスでは「今夜、このアリーナ、めっちゃイイ感じ」とプレイ同様に華麗な日本語を披露して、8,263人の観客を笑顔にさせた。
Bリーグのクラブ主管試合で新記録となった8,263人の観客が詰めかけた沖縄アリーナ。それは沖縄というプロスポーツ不毛の地で、琉球ゴールデンキングスが積み上げてきた歴史の成果だ。そして沖縄という土地に住む人々の「バスケットボールを楽しみたい」という純粋な喜びの積み重ねでもある。
もうすぐ、日本で一番楽しいバスケットボール、沖縄アリーナでのチャンピオンシップが始まる。