津山尚大(B1)、佐々木旭(J1) 川崎をホームに戦うクラブ同士のコラボ対談

11月下旬、川崎ブレイブサンダース所属の津山尚大選手、J1川崎フロンターレ所属のDF 佐々木旭選手。「川崎」をホームに持つクラブ注目選手のコラボ対談が行われた。

川崎ブレイブサンダース 津山尚大選手

津山尚大(つやま しょうた):1996年生まれ、沖縄県出身。川崎ブレイブサンダース所属のPG/SG。福岡大学附属大濠高卒業後、琉球ゴールデンキングスでプロキャリアをスタートして、福岡、A東京、三遠、島根に所属。今季から川崎ブレイブサンダースへ加入。優れたハンドリング技術と、広範囲から狙える高精度のシュート力を武器とする攻撃的ガードとして活躍中。

佐々木旭(ささき あさひ):2000年生まれ、埼玉県出身。川崎フロンターレ所属のDF。埼玉平成高、流通経済大を経て2022年に川崎フロンターレへ加入。大学時代に攻撃的MFからSBへ転向し、関東大学リーグMVPを獲得した経歴を持つ。プロ初先発で初得点を記録するなど、高い攻撃性能と対人守備を兼ね備える。左右両足の精度が高く、SBのほかCBもこなす万能性と、積極的な攻撃参加が魅力。

目次

バスケとサッカー 異なるフィールドでもプロとしての視点は同じ

ブレイブサンダースとフロンターレ。川崎という街をホームタウンとして、異なるスポーツのトップレベルで戦う二人。津山と佐々木は、それぞれのホームゲームを観戦した時に感じた印象や、プロとしてプレーする時の思考を語り合った。そこで見えてきたのは、競技が異なっていても、トップレベルで戦い続ける者の思考が、驚くほど似通った土台の上に築かれていることだった。

佐々木:僕がブレイブサンダースを観戦した時、試合展開がすごく面白くて、最後のシュートを決めたら勝ちみたいな展開だったんです。残念ながら外れちゃったんですけど。バスケの試合は初観戦でしたが、とても興奮しました。

一方、津山が観戦したのは、4-4という壮絶な点の取り合いとなった試合だったという。

津山:僕が見に行ったフロンターレの試合も本当に面白くて。印象的なのはファンの方々の熱量の熱さ。ピッチで選手が見せるプレーも、パスワークとかすごいなと思いましたし、新鮮な感じでした。

ディフェンダーとガード。それぞれのポジションは常に複雑な状況判断を要求されるが、その判断の根幹にある哲学は驚くほど似通っていた。佐々木は自身のプレーをこう分析する。

佐々木:常に予測して、相手が何をしたいんだろうなっていうのを考えながらやっています。特に対戦相手のフォワードは外国籍選手も多いので、まともに勝負したら勝てない。先に先読みしながら、体の当て方や走るコースを考えています。

「予測」というキーワードは、津山にとっても最重要事項だ。

津山:僕も佐々木選手と一緒になっちゃうんですけど、予測が一番大事だと思います。その上で、様々なバスケットボールのシチュエーションをイメージして日頃から練習しています。

一瞬の判断で、味方と敵の位置、自分との距離を把握するために、絶えず頭の中でプレーをシミュレーションしているという。フィールドは違えど、トップアスリートは常に二手三手先を読み、最適な解を導き出す努力を惜しまない。

そしてどんなトップアスリートにも、パフォーマンスが上がらない「不調の波」は訪れる。その逆境にどう向き合うかで、真価が問われる。佐々木は、自身のミスが失点に繋がった時のメンタルコントロールについて語る。

佐々木:ディフェンダーのミスは失点に直結してしまいます。だからこそミスをしてはいけないんですが、そういう時こそより積極的なプレーを心がけています。消極的にならずに、自分からパスをもらいに行ったり、周りの選手に声をかけたりすることを意識しています。

対する津山は、客観的な自己分析で不調を乗り越えようとする。

津山:バスケットボールにおいて、シュートが入る入らないは水物だと思っています。キャリアを重ねていく中で、シュートの成否で一喜一憂しなくなりました。上手くいかないのは、自分のスキルがただ足りてないだけ。自分自身に自信を持ちつつ、自分を過大評価も過小評価もしすぎないようにしています。

プロを志したきっかけとモチベーションの源泉

二人がプロの世界を志した原点もまた同じく、幼い頃の純粋な憧れに満ちていた。

佐々木がプロを意識したのは大学3年生の頃だったという。

佐々木:大学でプレーをしている時期に『プロになれるかも』と感じ始めました。そこで、フロンターレからお話をいただきました。フロンターレは憧れのチームだったので、すぐ『行きます』と返事をしました。

幼い頃からの憧れのチームでプレーする夢が、佐々木のキャリアのスタート地点となった。現在の視線は、さらに高い場所へと向いている。

佐々木:日本代表に選出されたいです。今は代表入りをモチベーションのひとつとして努力しています。

そして、津山は早くからプロへの道を志していた。

津山:小学校4年生の時に、地元の沖縄に琉球ゴールデンキングスというプロチームが誕生して、初めて試合を観に行ったんです。もうそこからですね、プロになりたくて必死で努力しました。沖縄の中学校卒業時に『高校卒業でプロ選手になる』という、当時ではほとんど前例が無い道を目指しました。卒業生にプロ選手が多かった福岡県の福大大濠高校に進学しました。 

津山のプレーの源泉には、故郷 沖縄への強い想いがある。彼は幼い頃の憧れのチームへの道を、自らの努力で掴み取る。2014年の福大大濠高校3年生時には、インターハイと国体を優勝、ウィンターカップで準優勝という結果を残し、2015年1月には地元沖縄に戻り、琉球ゴールデンキングスへの入団を果たした。そしてルーキーから4シーズンを琉球でプレーした。

プロの日常 コンディションを支える生活習慣

最高のパフォーマンスを発揮するための、日々の食事、休日の過ごし方、そして独自のルーティン。トップアスリートの強さは、その徹底した自己管理に支えられている。

二人のコンディション管理は、まず食事から始まる。

佐々木:試合の2日前からはもう外食しません。夜は栄養士が自宅に来て調理したバランスの取れた食事を摂ります。朝食も自分で準備して、目玉焼き、肉、ブロッコリー、味噌汁、ご飯、ヨーグルト、納豆を食べます。最近、目玉焼きの焼き加減も完璧になってきました(笑)。

津山:佐々木選手ほど細かくはありませんが、ブレイブサンダースのクラブハウスでは練習日に昼と夜で食事を提供してもらえるので、そこで栄養バランスを考えていただいた食事をして試合に備えています。

また、津山は故郷の味を力に変える。彼のこだわりは、沖縄そば。津山にとってのソウルフードであり、母の味だ。

津山:川崎の沖縄料理店でも沖縄そばを食べました。とても美味しかったです。でも一番は、自分の母が作る沖縄そば。本当に美味しいんです。 沖縄にいた頃は、母の沖縄そばを食べるのが試合前のルーティンでした。スープの出汁にもこだわっていて、母は市販のスープ出汁は使わずに、鶏ガラから出汁を取ってくれていました。佐々木選手にもぜひ食べてもらいたいですね(笑)

心身を最高の状態に保つには、適切な休養とリフレッシュが欠かせない。二人のオフの過ごし方は対照的だ。インドア派だという佐々木だが、最近新たな趣味を見つけたそう。

佐々木:最近ゴルフにはまっていて、オフは毎週のように行っています。ゴルフの時は朝6時くらいに出発して、午後1時くらいには帰ってきちゃう。健康的なリズムで、心も体もリフレッシュできるんです。

一方、津山は忙しい子育ての合間を縫って、しっかり身体を動かしている。

津山:僕は子どもに朝6時くらいに起こされちゃいます(笑)。シーズン中は1日動かないという日は無くて、バイクで有酸素運動を30分ぐらいして身体を起こしてから1日を過ごします。合間に見る韓国ドラマにはまってます(笑)。

試合という大一番に臨むアスリートには、心を整えるための独自のルーティンがある。それは単なる願掛けではなく、心身をフラットに導く大事な作業だ。

佐々木:試合の日は絶対、家の掃除をしてから家を出ます。

空間を整えることが、佐々木の心をフラットな状態に導くのだろう。また、津山のルーティンは、自身の身体と深く結びついている。

津山:中学時代から同じルーティンでストレッチを必ずやっています。僕もともと腰痛持ちで、医師からも『よくその腰でやれているね』と言われるくらい。単なるルーティンというより、逆にしっかりストレッチをして、筋肉の状態を維持しないとプレーはできないくらいです。特別なストレッチというわけではないんですが、より念入りに行なっている感じです。

僕らのホームタウン 川崎でプレーする魅力

ホームタウンは単なる活動拠点ではない。声援を送り続けてくれるファンが暮らし、自らの生活が根差す特別な場所だ。自らの出身地ではない『川崎』という街でプレーする誇り、ファンとの絆、彼らが感じた街の魅力を聞いてみた。

川崎でプレーする一番の魅力は何か。二人は揃ってファン・サポーターの存在を挙げた。熱狂的な応援は、自らを高めるモチベーションになっている。

佐々木:フロンターレのファンの皆さんはすごくあったかい。生活していても感じますし、『ファンサポーターの皆さんのために勝ちたい』っていう思いは常に持っています。そういう部分は川崎という街ならではだと思います。

津山:ブレイブサンダースは歴史があるチームで、昔から見ているファンの方たちがすごく熱く応援してくれます。その中でプレイできることは、本当に自分の中で誇りを持ってやっています。

 

川崎市内のおすすめスポットを聞いてみると、二人の感想は『川崎』という街が持つ様々な顔を表していた。

津山:JR武蔵小杉駅から近い「グランツリー武蔵小杉」がお気に入りです。そこのパン屋さんがいつも行列ができているので食べてみたら美味しくて。そこでパンを買って、ぶらぶら散歩しながら過ごしたりします。

佐々木:僕にとっての川崎のイメージは、フロンターレの練習グラウンドがある「麻生区(あさおく)」ですね。入団してから2年間は麻生区にある寮生活でした。住宅地のなかにあって落ち着いた雰囲気で、街の方々も皆いい人ばかりでした。

二人とも、川崎で生活するひとりの人間としての顔を見せてくれた。そして、川崎駅周辺の賑わい(南部)と、閑静な住宅街が広がる麻生区(北部)。二人の感想の違いが、川崎という街の多様性をも示していた。

競技の深淵 バスケットボールとサッカーの比較論

バスケットボールとサッカー。ふたつのスポーツの違いは、選手の育成やキャリアにどう影響するのか。戦術の進化は観戦の楽しみ方をどう変えるのか。異なるスポーツのトップアスリートの言葉は、我々ファンにとっても興味深い。

ふたつの競技には、選手の成長曲線とキャリアパスにおいて、現状では大きな違いが存在する。その核心にあるのが、フィジカルの成熟に対する考え方だ。Jリーグでは16歳でトップチームの試合に出場する選手も珍しくないが、Bリーグでは高卒ですぐにプロ入りするケースはまだ少ない。高卒ルーキーとしてプロ選手となった津山はこう語る。

津山:バスケットボールは激しい身体接触を伴うスポーツです。成人男性と10代の若手選手ではどうしても身体の成熟度に差があり、身体が出来上がっていない状態で共にプレーをすると大怪我のリスクがあります。育成世代のチームも、身体の成熟度をつねに考えながらトップチームに送り出すようになっています。

選手のピーク年齢にも違いが見られる。サッカーでは30歳前後からベテランと見なされ始めるが、バスケットボールでは「28歳ぐらいから32歳ぐらいまでが選手として油が乗っている感じ(津山)」だという。

また、津山は22歳の時にカナダへ渡り海外挑戦した経験を持つ。コロナ禍で道半ばで断念せざるを得なかったが、その挑戦は彼のキャリアにおいて大きな意味を持っている。

津山:22歳での海外挑戦は遅いくらいでしたが、どうしても海外挑戦したい時期でした。将来的にはヨーロッパに挑戦したかったのですが、様々なことがあり志半ばで一度日本に帰ってきて、直後にコロナ禍になり海外挑戦の道は途絶えてしまいました。でも自分の中では失敗ではなく、その過程も含めて自分のキャリアの糧になっています。

バスケットボールの魅力は、単なる点の取り合いだけではない。「バスケは試合展開が早くて、どこに注目していいか難しい」という質問に、津山はより深い試合観戦のコツを教えてくれた。

津山:最近はディフェンスのレベルが上がってきて、なかなか点が入らない展開も増えています。ディフェンスでも、オフェンスのように色々仕掛けている戦術の駆け引きがあって、そこに注目しながら試合を見ていくと分かってくると思うので、ぜひ現地で観戦してほしいです。

華やかな得点シーンが目立つバスケットボールだが、津山が話してくれたように、守備側の緻密な駆け引きに目を向けることで、ゲームの奥深さが何倍にも感じられるはずだ。

佐々木にとって興味深かったと話してくれたのは、津山が教えてくれた「バスケの戦術ミーティング」。得点数が大きく異なるスポーツだからこそ、試合へのアプローチにも違いが生まれてくる。

佐々木:サッカーは例えばスコア結果が「2-0」で、得点シーンも失点シーンもはっきりしているからミーティング内容も分かりやすい。でもバスケは何十点も得点が入るスポーツで、どの部分を振り返るのか不思議でした。でも津山選手が『バスケもしっかり振り返る』と教えてくれたのが意外でした。

津山:チームにもよりますが、僕らは15分くらいのハイライト映像を作成してもらって『ここは良かったね』『ここは悪かったね』と省略して振り返ります。基本的には土曜、日曜、水曜と試合があって練習時間も取れない。出来るだけ短くしてやっています。

プロは常に自らを客観的に評価し、課題と向き合う。今シーズン、津山自身にとっては好調な序盤だったが、それにより相手のマークが厳しくなってきていることを実感している。

津山:今までの所属チームでは、僕の隣により得点力のあるエースだったり外国籍選手がいることで、僕がノーマークになる機会も多かった。今シーズンはそれがなかなか出来ていない。でもそれは、自分自身で局面を打開するスキルや能力という課題を克服できるチャンスなのかなって思っています。

津山が今季、数あるオファーの中から川崎ブレイブサンダースを選んだのは、「一番成長できるようなチームだった」こと、そして「一番熱量あるオファーを頂いた」ことが決め手となった。年齢的にもチームから中心選手として期待される、より厳しい環境にこそ成長の機会を見出している。

佐々木は、J1優勝に手が届かなかった今シーズンを「あまりうまくいかないシーズンだった(佐々木)」と率直に振り返る。それでも、「自分がなんとかしようという思いを、常に持ってプレーしていた」と強い責任感を口にした。ヨーロッパから移籍してきた選手や、伊藤達哉選手のような力のある日本人選手と共にプレー出来たのは「すごくいい経験」になっていると、前を向く。

津山が大事にする、故郷 沖縄への思い

津山にとって、同じ沖縄県出身選手であるチームメイト、山内ジャヘル琉人は「ウチーナンチュ(沖縄人)の後輩」であり、チームを担うポテンシャルのある若手選手だ。津山はプロとして、そして同じウチナーンチュとして、山内のさらなる成長を後押しする。

津山:ジャヘルはすごくフィジカルが強くて、身体能力も高い選手です。若いのでどんどん勢いがあるプレーを見せてくれます。試合中のコンビネーションについても、ジャヘルを型にはめて縛るのではなく『自由にプレーしていいよ』という感じでやっています。

#45 山内ジャヘル琉人選手 と #13 津山尚大選手

故郷のチーム、琉球ゴールデンキングスを離れて8シーズンが過ぎた。津山はプロとしてのキャリアのほとんどを沖縄県外のチームで積み重ねてきた。だが常に彼は、故郷から応援してくれている人々への感謝を忘れない。

津山:応援してくれる沖縄の人たちに『津山が県外で活躍してるよ』って声が届くくらい活躍することが、僕にとって沖縄の人たちへの恩返しだと思ってるので、そこをモチベーションにしています。

津山:今季、ブレイブサンダースはホーム川崎(2026年2月、4月)とアウェー沖縄(12月)の両方でキングスと対戦します。沖縄の皆さんの前でプレー出来る事をいつも楽しみにしていますので、ぜひ会場に足を運んでいただけたら嬉しいです。

「川崎」のために戦う意気込み

今回の対談以前にも、何度か食事の機会があったという津山と佐々木。対談や食事を共にする中で、二人は互いの新たな一面を発見したようだ。

佐々木:津山選手と一緒に食事に行った時、周りの人の飲み物が無くなったらすぐ注いであげたりして、『いいお兄さん』という印象でした。でも試合の中では、チームの中心選手で、ゲームを支配してる感じが素人の僕でも分かるような、凄い選手だなと思いました。

津山:佐々木選手は初対面ではすごく優しく喋ってくれる感じでしたけど、試合を見に行くと、ピッチに入る時のスイッチが本当に凄かった。ファンの方たちを見ても、佐々木選手を応援する人が多くて、本当に周りから愛されてる選手なんだなっていうのが分かりました。

二人は最後に、それぞれのファンへ共同でメッセージを送ってくれた。

「バスケもサッカーもまた違った魅力がたくさんあると思うので、これからも一緒に盛り上げていければと思います(佐々木)。」「これからもバスケもサッカーも一緒に盛り上がっていけるように、僕たちが頑張っていきたいと思いますので、応援よろしくお願いします(津山)。」

12月13日、14日に東急ドレッセとどろきアリーナで行われる川崎ブレイブサンダース vs アルバルク東京では、「川崎フロンターレコラボデイズ」として、川崎フロンターレとのコラボレーションイベントが実施される。14日の試合では、今回の対談に参加した佐々木旭選手、そして名願斗哉(みょうがん とうや)選手が来場する予定だ。

ゲストとして来場する佐々木を前に、津山は力強く宣言した。「この前は負け試合を見せちゃったので、勝つ試合を見せれるように練習から頑張りたいと思います」それに対し、佐々木も「バスケの試合は2回目なので、すごく見るのが楽しみですし、試合を盛り上げられるように頑張りたい」と期待を込めて応えた。

「川崎」という街全体を盛り上げるために戦うブレイブサンダースとフロンターレ。同じホームタウンの名を背負って戦い続ける姿は、この街のスポーツ文化をさらに豊かに、そして熱くしてくれるに違いない。

(取材・写真:佐藤智彦、構成:湧川太陽)

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この記事を書いた人

沖縄バスケットボール情報誌アウトナンバー編集部 │ #琉球ゴールデンキングス 試合レポートなら #OUTNUMBER │ 沖縄県U18、U15、ミニバス情報も発信中です

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