写真提供:日本バスケットボール協会 文:金谷康平 インタビュー:小笠原大介
「SoftBank ウインターカップ2020 令和2年度 第73回全国高等学校バスケットボール選手権大会」が12月23日(水)男子代表の豊見城が1回戦に登場、ブロック推薦で出場の強豪・北陸学院(石川)と対戦した。自チームのストロングポイントを把握し、フロアバランスを保ち、オフェンス時の『合わせ』を得意とする両雄は、緊迫感の中、囲碁の対局のような緻密な攻防を繰り広げた。辛抱強く戦っていた豊見城だったが、3Q残り24秒でスリーポイントを決められ、49対57とこの試合最大の8点差に広げられ、暗雲が立ち込める。しかしエース渡久地は時間いっぱいまで使い切り、相手ディフェンスの後方からのプッシングを誘いながら、美しいフローターシュートを沈めた。ボーナススローでこの日25点目を記録するとその後の10分間は彼のためにあった。渡久地はその間で3本のスリーポイントを含む8本のフィールドゴールを成功させた。
This is OKINAWA BASKETBALL11本のパスをつなぎ、美しくとどめを刺した25.1秒
残り31秒、豊見城71-67北陸学院。#7石田とのハイピックを利用し、北陸学院のエース#2塚本は大外をまわりレイアップを決めた。2点差となり、ゲームクロックの残りは25・1秒。コーチの嘉陽宗紀は後半2つ目のタイムアウトを請求した。嘉陽の指示によりバックコートには#7渡久地政睦、#10津田剛大、#14松田悠之介、#11平良一真の4人が配置された。スローインはキャプテンの#4知念拓己に託された。『一真走れ!早く!』を合図に、松田と入れ替わった平良が自陣めざして走ることで、松田についていた北陸学院#8清水をひきつける。すでに44得点を記録している渡久地は、さりげなく松田のそばに歩み寄る。ガード2人でディフェンス3人の意識をひきつけると、キャプテン知念はノーマークになった津田へ難なくチェストパスを通した。急に方向転換した渡久地は津田からハンドオフでボールを預かると、複数のパスコースを確保しつつも、ドリブルで3人を置き去りにし、フロントコートへボールを運んだ。ワイドレシーバーに転身したキャプテン知念が、渡久地からのパスをいったん受けると松田、津田、平良、松田、渡久地、津田、知念、松田を経由してみたび渡久地のもとへ。渡久地は仕上げに平良へのタッチダウンパスを通し熱戦に終止符を打った。この芸術的な25秒は、沖縄バスケットボール史に残る名場面として語り継がれていくだろう。
沖縄のバスケットボールアイデンティティを感じさせた豊見城の戦いぶり
平良一真が73点目となるゴール下を決めると、豊見城ベンチは堰を切ったかのように喜びを爆発させた。初めて全国大会に出場を果たした2年前のウインターカップから、一貫して追求してきた豊見城のバスケットボールが、一つの偉大な到達点にたどりついたからだろう。しかしそれだけではない。日本のバスケットボール界はここ数年でビジネス面でものすごい成長している中で、身長が2メートル級の留学生を受け入れることで高さの問題を解決することが、いまや高校バスケットボール界のスタンダードである。その風潮を疑問に思うと、もはやだれも主張しなくなったが、沖縄のバスケットボール人は言い放ってもいいだろう。『2メートルにフィニッシュを任せるバスケットボールが楽しいのか』と。
自分たちが追い求めるべきバスケットボールとはどういうものなのか、小さいないものが大きいものを倒す醍醐味やそのための方法、先人が取り組んできたこと、すなわち『アイデンティティ』をみつめなおしたいと、豊見城の勝利は私にそう思わせる。
豊見城 | 北陸学院 | |
73 | TOTAL | 69 |
14 | 1Q | 18 |
16 | 2Q | 16 |
22 | 3Q | 23 |
21 | 4Q | 12 |
44得点の大爆発の渡久地政睦選手のコメント
全国1勝はずっと目標に掲げてやってきたので嬉しいです。前半はシュートが入らず苦しかったですが、チームメイトのオフェンスリバウンドやディフェンスで助けられたので、4Qに波に乗ったプレーができたと思うのでチームメイトに感謝したいです。
Q、4Q入る前はどんな気持ちで?
リードを奪われていたので追い付きたいなとアグレッシブに点数取りに行きました。(シュートタッチは)打てば入るという感じで練習でやっていることを試合に出せました。
Q、去年の悔しい思いは?
去年の今頃は後悔していた。練習の取り組み方や意識を変えたことが活きました。
Q、全国1勝、歴史を刻んだが。
いや、まだまだ。8強と言わず決勝までこのままのペースでいきたいです。
Q、改善したいところは
自分のドライブに対してのヘルプが早いので、今度は仲間を生かすプレーを心掛けたいです。大事な時は自分がいくが、チームメイトにボールを触らせる機会を増やして、ストレスをできるだけ減らせたらと思います。
Q、嘉陽コーチからの具体的な指示は?
単純に攻めることが多かったので、もっとじらして、もう一度自分がもらって勝負というのが理想の形。あまりにも勢いにのって視野が狭くなってしまいました。
Q、44得点については?
キャリアハイ。県高校総体決勝で40点が最高だった。次は今日以上に取りたい。全国の舞台で目標を達成できるのは本当嬉しいしチームメイトに感謝したいです。でもまだ次があるので気持ちを切り替えて臨みたい。
Q、松田君の存在は?
自分が考えていることを理解して自分が動きやすいように道を作ってくれるので、得点やアシストにつながったと思う。
声を張り粘り強いディフェンスを続けたキャプテン知念拓己選手のコメント
Q、試合を振り返って
守備ではボックスアウトがうまくいきませんでした。初戦の硬さもあったと思います。序盤から接戦で心が折れそうになる事もありましたが、キャプテンである自分がここで折れたらダメだと自分に言い聞かせました。去年負けた悔しさを今年にぶつけるという思いもありましたが、あまり気負わずにまず初戦突破をすることに集中しました。
Q、後半は守備が改善して、渡久地君が爆発していたが特に彼にボールを集めようという意識は?
最後はエースが決めてくれる信じていたので、苦しい時間でも我慢のディフェンスをして彼にボールを集めました。
Q、守備が改善した要因、接戦を制した要因は?
前半はピックの逆側をやられて失点したので、約束事として同じミスはやらないと話し合って、そこから相手を中に行かせるようにしました。練習試合でもなんども苦しい接戦の状況があったので、そこを経験してきたから競り負けなかったと思います。
Q、2回戦に向けて
埼玉代表は身長高いと聞いている。浮足立たずに、1Qの入りからしっかり今日の後半の守備をして自分達の流れに持ち込みたいです。
オフェンスにディフェンスに身体を張り続けた津田剛大選手のコメント
Q、守備について
相手は同じ日本人。自分よりは身長低いけど周りの選手は身長劣っているので、1人でみんな守ってやろうと気持ちでずっと勝負していました。
Q、ブロック5について
自分が豊見城の留学生だと思って、思いきり飛び込んでいった。相手のドライブは監督の指示通り守備したら後半もしっかり守れたのでそこはみんなで徹底してきました。
Q、どんな指示がありましたか?
監督は頭がすごくて、ビデオ見ただけで相手の癖が分かるんで、それをそのまま守っていたら、その通りに相手が来て楽しくなりました。
Q、負けている時間帯もあったけど、楽しめましたか?
楽しいです(笑)
Q、最後のパス回しの場面について
狙い通りです。スペースを作っていけとの指示がありました。あんまり外でもらうのは怖くてやばいと思ったけど、テンパらずにしっかりパスを出せたので良かったです。
Q、次の試合について
A、次も日本人チームで1日空くのでしっかり研究して、体休めながら、次にそなえる。豊見城の留学生という気持ちは変わらずに臨みます。
豊見城を全国初勝利に導いた嘉陽宗紀コーチのコメント
厳しいゲームで、苦しい時間帯が多くて、こちらのリズムになるまで我慢比べだったので非常に苦しかったです。相手は個人のスキルが高く、どうしても守りでプレッシャーかけないといけなかった。相手のリズムになるとシュートも入るので、少しでもリズムを崩したいとボールマンプレッシャーをタイトにしたら、3Qにガードのドライブにかなりやられてしまったので、3Qは一度引き気味についたんですよ。4Qはこのままではダメだと思って、少しプレッシャーをかけながら、スイッチをもう少し許容して、どんどんスイッチしていいと許可しました。そしたら相手が突破ができなくなり、強引なシュートになってくれたので、うちのリズムに流れてきたかなということです。
Q、渡久地選手の活躍について
相手の渡久地に対する守り方が何種類が用意されていて、3Qはダブルチームを仕掛けてきて苦しめられました。ボール回しを指示したけど、4Qは少し引きぎみに守ってきたので、渡久地くんには練習してたスリーポイントを打っていいよとアドバイスしたら、自信を持って打ってくれました。それがチームを生き返らせた部分でした。難しい試合の中でよく選手たちは頑張ったと思います。
Q、守備では津田選手が外に引っ張り出されることも多かったですが対策は?
外に引っ張られるのは、みんなでローテーションしてなるべく津田君を下に残すように修正した。それでリバウンドが取れるようになりましたね。
Q、豊見城では初の全国1勝ですね
正直ゲームの途中まで、去年と同じかなと脳裏をかすめたけど、今となっては去年の経験がやっぱり今回に生きたかなと思います。接戦をしても最後までチャンスがあるんだと。最後のボール回しなどはリードしてる場面できっちりボール回して、時間潰して、最後得点につなげてゲームを終えることができたことは、去年の経験が大きかったと思いますね。ありがとうございます。次の試合についてはチームで話し合って対応したいです。
2回戦は25日(金)12時20分から、正智深谷(埼玉)と対戦 GO!WILDCATS