12月1日(月)、FIBAバスケットボールワールドカップ2027 アジア地区予選1次ラウンド Window1 チャイニーズ・タイペイ vs 日本が台湾新北市の新荘体育館で行われ、73-80で日本が勝利した。アウェーで貴重な白星を掴んだ日本は、アジア予選2連勝と好スタートを切った。

第1クォーター:ホームのチャイニーズタイペイが主導権を握る
ホームの大歓声に後押しされ、試合の主導権を握ったのはホームのチャイニーズタイペイだった。特に#0 Benson Lin(林 庭謙 リン・ティンチェン)と、#9 Ray Chen(陳 盈駿 チェン・インチュン)の活躍は目覚ましく、立て続けに3ポイントを決めて一時は9-0と日本を大きく引き離す。序盤は完全にチャイニーズタイペイのペースで試合が進み、最初の10分間は22-17とホームチームがリードを奪った。

第2クォーター:西田を中心に日本が逆転
第1クォーターで出遅れた日本だったが、第2クォーター、目が覚めたかのような猛反撃が始まる。この10分間で日本は25点を奪い、一方でチャイニーズ・タイペイの得点を14点に抑え込むことに成功。この反撃の中心にいたのが、日本の#19 西田 優大。彼の正確なシュートが次々と決まり、日本は一気に試合の流れを引き寄せ、36-42と見事な逆転劇で前半を折り返した。

第3クォーター:チャイニーズタイペイの粘り、試合は振り出しに
後半が始まると、今度はチャイニーズタイペイが驚異的な粘りを見せる。大黒柱の#34 Brandon Gilbeck (ブランドン・ギルベック)、そしてウイングプレーヤーの#39 Justin Lu (盧峻翔 ルー・ジュンシャン)を中心にゴール下で得点を重ね、日本のリードをじわじわと縮めていく。このクォーター、チャイニーズタイペイは21点、日本は15点と、再び流れはチャイニーズタイペイに傾き始める。そして第3クォーター終了のブザーが鳴った時、スコアは57-57と同点。ホームの観客たちは、自分たちを代表するチームがアップセットを起こす事を期待し始めた。

第4クォーター:勝負を決めた日本の集中力
同点で迎えた最終クォーター、勝負を決めたのは日本が誇る経験と集中力が生み出した、わずか数分間の圧巻のプレーだった。試合の行方を決定づけたのは、#2 富樫 勇樹を中心とした2023年ワールドカップのメンバーのプレーだった。富樫は4クォーター最初の得点を得意のフローターでバスケットカウントワンスローを獲得すると、さらにレイアップでも得点。リズムを掴んだ日本は、#12 渡邊 雄太のオフェンスリバウンドからの得点や、西田のファストブレイクなどでチャイニーズ・タイペイを突き放す。さらに富樫が3ポイントを決め、クォーター開始わずか2分半で61−69と、日本は8点リードを奪う。
この連続得点が、事実上のノックアウトブローとなった。チャイニーズ・タイペイも最後まで必死に食い下がるものの、日本は重要な局面での集中力を切らさず、最終スコアは73-80。日本はリードを守り抜いてアウェーでの激闘を制した。
試合スタッツ:チャイニーズ・タイペイ vs 日本 – 1次ラウンド – FIBAバスケットボールワールドカップ2027 アジア予選 | FIBA Basketball

試合後 記者会見
日本代表 トム・ホーバスHC
ホーバスHC:非常にタフな試合でした。チャイニーズ・タイペイは、序盤から3ポイントを次々と決め、アリーナはエネルギーに満ちていました。
私が選手たちを誇りに思うのは、試合中にリードを許し苦しい展開になったときでも、そのまま崩れることなく、着実に船を立て直した点です。第2クォーターで流れを引き戻し、ハーフタイムにはリードを奪いました。
その後、タイペイが再び追い上げ、第4クォーターに入る時点では同点でした。私は多くのベテラン選手を起用しました。特に、前半あまりプレーしなかった富樫勇樹は、長年の経験を持つ選手であり、彼の意思決定を信頼しています。彼は第4クォーターの試合運びを本当によくマネージメントしてくれました。
全員が素晴らしいディフェンスを見せ、チーム一丸となった努力の結果でした。タフな環境で、非常にタフなチームを相手に勝利を収めたことを本当に嬉しく思います。
Q:渡邊雄太はパリオリンピック以来、代表チームに再び参加して戦っているが、今日の試合だけでなく、コート上およびコート外での彼のパフォーマンスをどう評価するか。
ホーバスHC:渡邊雄太はリーダーシップが何かを知っており、チームに献身している。勝つために必要なことは何でもする選手です。彼は、試合に影響を与えるために常にシュートを打つ必要はない。彼のリバウンド、ディフェンス、そしてリムプロテクトは素晴らしい。彼が試合に出ているとき、私たちのチームは「非常に異なる」ものになります。彼はチームをより良くする「存在感」を与えてくれます。彼の姿勢とプレーに本当に感謝しています。
Q:試合終盤に10点のリードがあったが、そのアドバンテージリードを維持できなかった(ボクシングのようにガードが下がった時に打たれるような)展開をどう考えるか。
ホーバスHC:私たちは通常なら決めるであろう、3つか4つのワイドオープンなシュートチャンスを逃しました。それがバスケットボールです。もし、試合の最後の4分間でその3ポイントのうち一つでも決めていれば、完全に違う試合になっていたでしょう。
シュートを外すことはバスケットボールの一部です。(先日のヨーロッパ予選で)リトアニアがグレートブリテンを相手に9秒で7点差をひっくり返すような展開も起こり得ますし、起こしてはいけない。ターンオーバーについては、少し改善できる点があると思います。
西田優大は素晴らしいプレーをしましたが、アグレッシブに攻めた結果のターンオーバーもいくつかありました。しかし、一生懸命プレーを作ろうとしている結果のターンオーバーに対しては、まったく腹を立てることはありません。
重要なことは、私たちは勝利したということです。 これは私たちのワールドカップへの道のりの素晴らしいスタートになりました。
Q:第4クォーター 残り4:40の場面、フリースローがキャンセルされた場面について
ホーバスHC:ロッカールームでその話をしたよ。ベンチからの素晴らしい判断でした。確か冨山ACか吉井か、彼らが話をしていて僕に教えてくれたんだ。あれはベンチの素晴らしい仕事だった。
Q:西田選手は今日素晴らしかったが、アジアカップでは少し不安定だった。アジアカップでは彼を起用するのが難しかったと聞いたが、彼が最も改善した点は何か。
ホーバスHC: 彼を起用するのが難しかったとは言った記憶はない。彼はアジアカップで多くの時間プレーした。改善点として、我々は彼の役割を調整しました。アジアカップでは、彼は3ポイントを多く打ち、ペイントエリアに入ることが少なかった。今回の合宿では、彼にドライブしてペイントエリアにより入るようにさせました。これはチームにとって非常に効果的であり、彼の精神面にも役立ったと思います。また、ボールハンドリングとペイントエリアへの侵入を助けるスキルコーチを導入しました。
Q:ジョシュ・ホーキンソン選手への評価について。彼はほぼフル出場しているが、今後(韓国戦、中国戦などの)試合で彼を使い続けるか、あるいはニック・メイヨなどの他の帰化選手の起用を検討するか。
ホーバスHC:誰を起用するかは言えないよ(笑)ただ、ジョシュ・ホーキンソン選手がここ数年、間違いなく最高の帰化選手であったことは明らかです。
今回のキャンプにはニック・メイヨ選手も招集しました。ニックはキャンプで素晴らしくプレーしました。ただ、私は選手たちとの「慣れ(Familiarity)」が必要であり、ニックは新しい選手なので、今すぐ彼を「火の中に放り込みたくなかった」のです。
ニックは素晴らしい選手であり、ホーキンソンとは異なるタイプのプレーヤーです。しかし、ジョシュはリバウンドの面で私たちにとって「岩(Rock)」のような存在です。私は試合後にビデオを見て、「どうやってあのリバウンドを取ったんだ?どうやってあのシュートを守ってリバウンドを取ったんだ?」といつも驚かされます。彼がしていることは本当に驚くべきことです。彼はワールドカップとオリンピックで効率性(Efficiency)がトップ3に入る非常に優れたプレーヤーです。

日本代表 #2 富樫勇樹
富樫:勝利を収められたことを嬉しく思います。ホームで戦う素晴らしいチーム相手で非常にタフでした。特に19番 西田優大選手が非常に大きくステップアップしたと思います。ホームで26点差で勝った後、台湾に来てタフな試合になることは分かっていました。私たちは辛抱強く、全員が準備を怠りませんでした。
Q:試合の終盤に起用されたが、この試合における自身のパフォーマンスについてどう思うか。
富樫:数分でもプレーしてチームにモメンタムを与えようと、ただ考えていました。ホーバスHCから「調子が良いから続けてプレーしろ」と言われるといつも嬉しいです。

チャイニーズ・タイペイ Gianluca Tucci (ジャンルカ・トゥッチ) HC
トゥッチHC:本日、我々は試合に負けましたが、この選手たち、このチーム、この環境、そしてファンに対し、「嬉しいわけではないが、誇りに思う」と感じています。人生において、「誇りに思う」ことは「嬉しい」ことよりも重要だと考えます。フィジカル面で劣っていると認識しているにもかかわらず、リム下で大いに戦い、リバウンドの挑戦を引き分けました(両チームとも45本)。シュートは前回よりも良かったですが、経験豊富な日本人選手に対しては不十分でした。第4クォーターの最初の数分で苦戦し疲労も見られましたが、チームがこのような「ハート」をもって試合に臨むならば、ワールドカップへチャレンジする道はまだ生きています。
Q:パワーフォワード(PF)のポジションについて、スターティングラインナップの変更(#88 Jack Tseng / 曾祥鈞 ツェン・シャンジュン 元 FE名古屋所属 の起用)と、彼の生産的なプレー、および全体的なPF選手の調整について教えてください。
トゥッチHC:Jack Tseng、Jonah Morrison、Samuel Manuを含むPFたちは皆よく戦い、このポジションはチームにとって「非常にデリケート」であると考えています。残念ながら、彼らのスリーポイントの成功率は、私たちが実際に必要とする高いレベルに達していません。私たちはPFに、今日のように戦い、ディフェンスでタフになり(ボディを使い、ボックスアウト)、コートでのスリーポイントシュートを決めたり、クローズアウトに対して1対1でアタックしたりする準備ができていることを求めました。トータルリバウンド数(45対45)は引き分けましたが、特に西田選手がロングレンジでスリーポイントを決めたようなデリケートな瞬間においては、リバウンドの量が十分ではありませんでした。
Q. 最終クォーターでフリースローの2点が取り消された状況について、コーチの見解は?
トゥッチHC:審判は、ファウルが誰に対してコールされたか分からない混雑した状況だったため、誰がフリースローを打つ責任があるかを確認する責任があります。もし間違いがあったならば、後に修正するのではなく、早く、その場で行うべきだった。後に修正したことで2点が奪われ、正しいフリースローを打つ機会が与えられなかったため、これは私たちだけの責任ではありません。

チャイニーズ・タイペイ 39 Justin Lu (盧峻翔 ルー・ジュンシャン)
ルー:前試合からの多くのミスを修正することができましたが、試合に勝てなかったことは残念です。チームメイト全員がベストを尽くしました。
Q:ジャスティン選手は、この試合でチームが行った調整、日本人メディアの注目、そして最終クォーターでフリースローによる2点が取り消された際の反応についてどう感じていますか?
ルー:【調整点】 前試合での不必要なターンオーバーを調整する必要があると考え、この試合にはポジティブな考え方で臨みました。 【メディアの注目】 自分らしくやるだけですね。そして実際に、自分らしい表現、自分のパフォーマンスができたので、皆さんに見ていただけたら嬉しいです。

リバウンド:「量より質」が生んだ逆転現象
この試合で最も意外なチームスタッツは、リバウンド数だ。試合終了時、チャイニーズ・タイペイと日本の総リバウンド数は、全く同じ「45本」だった。
しかし、この数字の内訳を見ると、試合の異なる側面が見えてくる。特に注目すべきは、ポゼッションをもう一度得るオフェンスリバウンド。チャイニーズ・タイペイが16本を獲得したのに対し、日本は11本に留まった。
通常、これはチャイニーズ・タイペイが攻撃回数で上回り、試合を優位に進めたことを意味する。しかし、データが示す現実は真逆だった。オフェンスリバウンドからの得点である「セカンドチャンスポイント」は、日本が14点を挙げたのに対し、チャイニーズ・タイペイは11点に終わっている。
つまり、日本はより少ないオフェンスリバウンド(11本)から、より多くの得点(14点)を生み出したのだ。これは、セカンドチャンスにおける日本のシュートセレクションと遂行力の高さを示すものであり、「量の優位」を「質の高さ」で覆したことになる。

日本の生命線:インサイドでの「支配」ではなく「精度」
両チームの明暗を分けたもう一つの要因は、2ポイントシュートの成功率だ。日本が極めて効率的な52.9%を記録したのに対し、チャイニーズ・タイペイはわずか33.3%と苦しんだ。
この2ポイントにおける決定力の差こそが、試合の行方を決したポイントだったと言える。
しかし、これを単純な「インサイド支配」と結論づけるのは早計だ。実際にペイント内での得点である「ポイントインザペイント」は日本30点、チャイニーズ・タイペイ28点と拮抗。これはゴール下でのバトルが、いかに激しいものであったかを物語っている。
日本の真の強みは、ゴール下だけでなく、ミドルレンジのジャンプシュートやフローターを含めた「インサイドアーク(3ポイントラインの内側)全体」におけるシュート精度の高さにあった。この決定的な差が、オフェンスリバウンドでの劣勢を補って余りあるアドバンテージを日本にもたらした。また、渡邊雄太選手の4本を含むチーム合計8本のブロック(チャイニーズ・タイペイは2本)が、相手のインサイドでの得点効率をさらに低下させたことも見逃せない。

勝敗を分けたベンチメンバーの力
接戦においてチームの総合力が試されるのが、控え選手の貢献度だ。「ベンチポイント」を見てみると、その差は歴然。日本のベンチメンバーが合計で21点を挙げたのに対し、チャイニーズ・タイペイは10点に終わった。
この選手層の厚みが、試合を通して高いインテンシティを維持することを可能にした。特に勝負どころとなった第4クォーターで、日本がチャイニーズ・タイペイを23-16と突き放すことができたのは、富樫をはじめフレッシュな選手を投入し続けられたからだ。
このベンチスコアを牽引したのは、富樫勇樹(8得点)と安藤誓哉(6得点)だ。二人の活躍が、チームに勢いをもたらした。チャイニーズ・タイペイはブランドン・ギルベックが16得点、18リバウンドという驚異的なインサイドパフォーマンスを見せたが、日本は西田優大がチームハイの18点を挙げる活躍に加え、チーム全体の力、特にベンチメンバーの活躍で勝利を掴み取った。

最高のスタートダッシュと、沖縄で迎える最大の山場
決して侮れないチャイニーズ・タイペイとの2連戦を連勝して、アジア予選を最高のスタートダッシュに成功したAKATSUKI JAPAN。しかし、本当の山場は次のWindow2となる。
Window2は来年2月26日(木)に中国、3月1日(日)に韓国をホーム沖縄サントリーアリーナで迎え撃つ。Window1ではこの両チームがホーム&アウェーで対戦して、グループ最強と目されていた中国に対して韓国が2連勝した。
参考:中国 vs Korea – 1次ラウンド – FIBAバスケットボールワールドカップ2027 アジア予選 | FIBA Basketball
参考:Korea vs 中国 – 1次ラウンド – FIBAバスケットボールワールドカップ2027 アジア予選 | FIBA Basketball
Bリーグ長崎ヴェルカに所属するイ・ヒョンジュンが圧倒的な存在感を見せつつ、周りを固める選手達との一体感あるチームに成長した韓国。そしてまさかの2連敗を喫し、アジア最強国としてのプライドを賭けて挑んでくる中国。ホームである沖縄サントリーアリーナでこの強敵に勝利できなければ、次のWindow3で彼らにアウェーで勝利することの難しさを考えた時、たとえ1次予選を突破できたとしても、2次予選を非常に不利な立場で戦うことになる。
参考:ワールドカップ出場権を得るには – FIBAバスケットボールワールドカップ2027 アジア予選 | FIBA Basketball
参考:順位- FIBAバスケットボールワールドカップ2027 アジア予選 | FIBA Basketball
チャイニーズ・タイペイに2連勝した直後、西田は少し昔を思い出しながら、こう話してくれた。「沖縄は日本代表にとっても特別な場所という雰囲気が僕にもあります。沖縄での2連戦を勝てば(予選突破の確率が)かなり大きいので、また沖縄で勝てるように頑張ります」
日本バスケ界の運命を変えた2023年FIBAワールドカップ。その舞台となった沖縄で、再び繰り広げられる「負けられない戦い」。バスケの聖地となった沖縄で、AKATSUKI JAPANの歓喜を期待したい。
(写真提供:FIBA、構成:湧川太陽)



