“誰かが扉を開けないといけない” Bリーグ初の欧州遠征が示す琉球ゴールデンキングスの矜持 安永淳一GM 現地インタビュー

琉球ゴールデンキングスが新たな境地へと足を踏み出した。

9月7、8の両日、イタリア南部のシチリア島に位置するトラパニで行われた国際トーナメントに参戦。Bリーグのクラブが、世界トップレベルの国がひしめく欧州で開かれる国際大会に参戦するのは初の事例であり、日本のバスケットボール界全体の発展に向けても大きな一歩となった。

初日は主催クラブであるイタリアリーグ1部(セリエA)のトラパニ・シャークと戦い、69-78で敗北。2日目は同じくセリアAのデルトナ・バスケットと3位決定戦を行い、71-80で敗れた。ユーロリーグで優勝経験のあるセルビアリーグの名門パルチザン・ベオグラードと対戦することは叶わなかったが、フィジカルや戦術面に長けた欧州のチームと対戦したことは、選手やコーチ陣にとって貴重な経験になったに違いない。

小さな離島県を本拠地とするクラブが、なぜ日本初のチャレンジをする決意をしたのか。そして、今回のイタリア遠征から何を得て、今後にどう生かしていくのか。現地時間の9月8日午前、試合会場となったパラ・シャークアリーナで安永淳一GMにインタビューした。

言葉の端々からは、先進的な取り組みを続け、Bリーグ屈指の人気と実力を誇るまでに成長した琉球ゴールデンキングスというクラブの矜持が垣間見えた。

本誌インタビューに答える安永GM (現地9月8日)

 

──今回のイタリア遠征はどういった経緯で招待をされたのでしょうか?

主催クラブであるトラパニ・シャークは昨シーズン、新しいオーナーになってチームが改革され、イタリアの2部リーグで優勝を果たして1部リーグのセリエAに昇格しました。ただ、彼らとしては1部に上がるだけではなく、1部でも活躍できるチームになりたいという思いがあり、プレシーズンに大きな花火を上げて機運を盛り上げようと今回のトーナメントを企画しました。その中の1チームとして『アジアの優秀なクラブを呼びたい』ということで、声を掛けていただきました。

トラパニ・シャークのホームアリーナPala Shark (PalaIlio)

 

──移動距離や時間を含めて欧州への遠征はかなりハードルが高いと思いますが、参戦を決めた理由を教えてください。

キングスとしては、僕たちが一番にやらなきゃいけないという使命感を常に持っています。Bリーグで一番強い、日本バスケで一番強いということももちろん大事なことではありますが、その枠だけにとらわれてしまったのが過去の日本バスケの歴史だと思います。そういう枠を外して、世界で通用する日本代表、世界で通用するプロのクラブになることが、今の日本のバスケットボール界にとって非常に大切だと思っています。

野球の世界でも、僕たち世代が子どもだった頃は大リーグというのがよく分からなくて、漫画とかで見てなんとなく「すごいんだ」というくらいの感覚でした。それが、野茂英雄さんが大リーグに行って大活躍して、一気に扉が開いた。それから日本の選手たちがどんどん大リーグに行って活躍して、大リーグのチームと日本のチームが戦うこともあり、肩を並べるというところまで行きました。

やっぱり、初めはそうやって誰かが扉を開けないといけない。日本のバスケットボールにおいて、キングスはそういうチャレンジを大切にするクラブとして歩んできているので、僕たちが一番最初にヨーロッパに行きたいということは考えていました。今後機会があれば、南米も一番初めに行きたいですね。今回、こうやってキングスがアジアで優秀なクラブだからということで招待をしてもらったことは、今までやってきたことが実った、間違いではなかったということを実感できています。

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──それだけ日本バスケの見られ方も変わってきているということでしょうか?

それこそ15年前に「日本でプロバスケチームをやっている」と言ったら、しっかり運営をしていたとしても、ヨーロッパのチームから子ども扱いをされていたと思います。私も以前はアメリカのNBAで働いていましたが、あちらから見ても誤解をされている側面はありました。しっかりと世界にアピールすることができていなかった。近年、オリンピックやワールドカップという大きな舞台で日本代表が活躍して、それが非常に大きな追い風になっています。

さらに代表だけではなく、プロリーグのチームも日本バスケを世界にアピールする一つのツールとして存在意義があると思います。そういう意味で、今回の遠征を見ても本当にリスペクトされるようになったなと感じます。とても達成感がありますね。

 

──主催クラブであるトラパニ・シャークの印象はいかがですか?

彼らは今回の大会を盛り上げようとすごい努力をしていて、大会前日の6日には市街地の屋外にステージを作って前夜祭を開いていました。私たちも呼んでいただき、ステージに上がらせてもらいました。もちろん規模感の違いはありますが、それこそ日本の映画界の人たちがカンヌ映画祭やベネチア映画祭でレッドカーペットを歩いているような、あれに似た感覚を味わうことができました。自分たちは招待されたんだ、と。格上のクラブであるセルビアのパルチザン・ベオグラードのメンバーも来ていて、ああいう名門クラブと一緒に肩を並べてやりたいというトラパニ・シャークの想いも伝わってきました。

トラパニ・シャークとは初日に試合をしましたが、彼らはあれが3試合目のプレシーズンゲームで、すごく調整してきていたと思います。主催クラブということもあり、彼らからしたら「must win」なゲームだったはずです。逆にキングスとしては、初めて今シーズンの11人で戦う試合でした。自分たちが練習してきたものを継続してやっていくことが第一で、コンディション面の難しさもあって勝ちにこだわれなかったのは残念ですが、選手たちはいい経験をしたと思います。

ホストチームのトラパニ・シャーク(黒)は初戦でキングスに勝利した

 

──キングスは「沖縄をもっと元気に!」という理念の下で活動していますが、地域とのつながりという面で刺激になった部分はありましたか?

彼らがやっていることは間違っていないと感じます。トラパニという町は、地理的に地中海の要衝になっていて、港町でマグロがよく獲れるそうです。ここのマグロを頑張って日本にたくさん送っていて、オーナーが「日本は一番いいお客さんだ」とおっしゃっていました。ただ、それだけで産業が十分なわけではなく、みんなを元気にさせるためにスポーツ文化の発展に力を入れようとしています。トラパニ・シャークのオーナーはバスケだけでなく、サッカークラブのオーナーも担っています。スポーツを使って活気ある市民の暮らしを創出しようとしていることは、素晴らしい取り組みだと思います。

 

──キングスはSNSでも多くのフォロワーがいて、日本のバスケ界、そしてEASLにも出てアジアでも知名度を上げています。そういうクラブを呼ぶということは、彼らは日本のマーケットにも関心を持っているということなのでしょうか?

どのオーナーも同じですが、クラブ経営をしている中で、当然勝ち馬に乗りたいという考えはあると思います。今回パルチザンが呼ばれていますが、彼らが来たおかげで、この大会に箔が付きました。アジアの日本から初めてプロのクラブがヨーロッパに行って試合をするということも、この大会の価値を上げることにつながったと思います。どこと戦うか、誰と大会をやっているのかということは、クラブを経営する上で非常に大事なことです。

他のチームのGMと話をしていても「日本のプロバスケのレベルが急激に上がったね」「日本の成長はすごいね」ということをよく言われます。僕たちはヨーロッパがどういうクラブ作りをしているのか学びたいんですけど、一緒にご飯を食べて話し始めると、日本のバスケ界が「なんでこんなに成功しているのか」「なんでこんなに盛り上がっているのか」と質問される方が多いです。日本のバスケットボールがこんなにも欧州からも見てもらえているんだということが、すごく感じられますね。

試合会場のPala Shark 内部 ホームゲームでは欧州独特の応援が繰り広げられる

 

──安永GMはNBAネッツの職員として長らく務めた経験がありますが、アメリカとヨーロッパにおけるバスケットボールクラブの文化の違いは感じますか?

それぞれいい部分がありますね。ヨーロッパのチームはすごく歴史があって、パルチザンで言えば1945年の創設、デルトナ・バスケットも1955年です。NBAは1960年代にできているクラブが多い。ヨーロッパは町づくりの中にスポーツがあって、特にサッカーに象徴されますが、町をあげて応援する文化が強い。その中でバスケットボールも頑張っています。

一方、アメリカは多様性があります。例えばニューヨークを見てみても、野球のヤンキースとメッツがあって、サッカー、アイスホッケーのチーム、そしてバスケットボールもブルックリン・ネッツとニューヨーク・ニックスがあります。いろんなスポーツが受け入れられて、共存しているのはアメリカらしいですね。

日本は、昔はプロ野球一強だったのが、Jリーグができて、Bリーグもまだまだ伸びしろがある。20時間以上をかけて飛行機に乗り、キングスがこうやってヨーロッパまで来てプレシーズンゲームをやることによって、その伸びしろにもっと気付いてもらえるんじゃないかと思います。

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──今後、ヨーロッパのチームが沖縄アリーナに来る可能性もありますか?

来てほしいですね。実際、沖縄に韓国のチームが来てくれたり、オーストラリアのチームが日本を縦断してBリーグのチームと対戦したりしているので、世界との繋がりはどんどん広がっています。日本はそういう意味ですごい勢いがある。その中でも、僕たちは機動力があるチームだと思うので、やると決めたらやるという考え方で、今後も機動力を生かしていきたいですね。

欧州名門クラブ パルチザン・ベオグラードは今回2連勝を飾った

 

──日本から簡単には行けないイタリア南部のシチリア島に「沖縄」「琉球」という冠を付けて来たことで、現地の人の中には初めて沖縄という地名を知った人もいると思います。

キングスが本拠地としている沖縄はどこかと調べたら、国内の一番南にある島で、「シチリアと一緒だね」と親近感を持ってくれる人もいました。単なるバスケットボールの対戦相手というだけでなく、相手チームも私たちのことをリスペクトしてくれています。文化の交流としても、お互いにとって良いんじゃないかなと思います。

イタリアのシチリア島は沖縄と同じく海に囲まれた観光都市だ

 

──沖縄に帰った後、この経験をどう生かしていきますか?

この経験は何ものにも変えることができない。選手たちも今回の遠征を通し、数日ではありますが、ヨーロッパのバスケはこういうものだということを感じ取れたと思います。

レベルの高いヨーロッパの人たちも必死になって勉強して、コーチが選手に教えて、選手は日々学んでバスケをしている。僕たちと同じことをやっています。今シーズンのキングスは、3人もB1でヘッドコーチをした経験があるコーチ(桶谷大ヘッドコーチ、佐々宜央アソシエイトヘッドコーチ、穂坂健祐アシスタントコーチ)がいて、そういう体制は絶対に世界に対しても引きを取らない。そういう意味では、選手たちが自分たちのやっていることに対して自信を持てた側面もあると思います。

これから僕たちがどの方向を向いて歩んでいくのかと言われれば、やっぱり「沖縄を世界へ」ということを追求していきたいです。世界の人たちが「日本のバスケと言えば沖縄」と思い込むくらい、バスケットボールというスポーツを使って沖縄ブランドを世界に広げていくことができたらなと思います。

(文・写真:長嶺真輝)

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