背番号14 14年目の挑戦 琉球ゴールデンキングス 岸本 隆一 [2025.09.19]

「まず前提として、けっこう僕必死なんで。ほんと毎年」

プロ経験の無いルーキーの決意表明ではない。プロバスケ選手キャリア14年目の開幕を迎えようとしている背番号14、岸本隆一の言葉だ。

9月19日、琉球ゴールデンキングスはBリーグ開幕直前のメディア向け公開練習と記者会見を行った。岸本はそこで冒頭の言葉を話し、報道陣を驚かせた。

岸本は、プロキャリアの全てを地元沖縄の球団である琉球ゴールデンキングスでプレーしている。沖縄県立北中城高校を卒業後、大東文化大学に進学して、当時bjリーグの強豪だったキングス期待の新人として2013年1月に入団した。それ以降、岸本は何度もチームの危機を救うシュートを決めてきて、ファンから『Mr.キングス』と呼ばれるまでの存在に成長してきた。

しかし昨季はレギュラーシーズン終盤の4月、ホームで行われた長崎ヴェルカ戦で左第5中足骨骨折となり、それ以降のシーズンを全休。勝負のチャンピオンシップに出場は叶わなかった。チームの中心であり象徴でもある岸本の離脱のショックは大きく、その影響でキングスをBリーグ優勝候補から外す識者も少なくなかった。

だが、キングスはすでに岸本ひとりのチームではなかった。セミファイナルでの松脇圭志の劇的同点シュートや、ファイナルでルーキー脇真大の印象的な活躍など、キングスは逆境に負けずに何度も蘇ってきた。ファイナルでもリーグ最高勝率の宇都宮ブレックスを相手に1勝1敗で第3戦まで粘り続け、最後の4クォーターまで優勝した宇都宮を追い詰めた。

頼もしい味方の成長と躍進をコートサイドから見つめた岸本だからこそ、冒頭の「必死なんで」という言葉が自然と出たのだろう。

2024-25ファイナルを怪我で欠場した岸本

35歳という年齢を考えても、岸本がどこまで以前の自分を取り戻せるかどうか。それが今季のキングスにとって大きな鍵になる。岸本自身もそれを感じているという。

「自分のことで精一杯なところがありますし、現段階で周りに気を遣えるほどの余裕は無いです。怪我明けの今季スタートは、例年とは違う気持ちです。例年は割と楽しみみたいな気持ちの方が強いんですけど、今季に関して言えば『楽しみと不安』その両極端な気持ちが入り混じっているのが、今の正直な心境かなと思いますね。

『余裕は無い』と言葉にしつつ、だからといってチームメイトを押しのけてプレータイムをガムシャラに取りにいくという訳でもない。むしろ逆だ。今季のキングスはガード陣の層が厚く、岸本といえどプレータイムは確約されていない。それでも岸本は『今の段階では協力が大事』と言い切る。

「個人的な感覚ではありますが、今の段階では競争よりも協力が大事だと思っています。もちろん試合や練習の中で競争すべき部分はたくさんありますが、チームとしてどう団結して協力していくのか。そこにフォーカスすべき段階だと考えているので、そのバランスを上手くとりながら日々を過ごしています。チームメイトに協力してもらわないと、自分だけでは上手くいかないことも多いですし、そういう意味ではチームメイトにも協力していきたいです」

『自分だけでは上手くいかないことも多い』それも本音だろう。岸本はバスケットボール選手として恵まれたサイズがあるわけでもないし、独力で相手を打破するようなプレーヤーでもない。チームで戦ってこそ、自らが輝く。岸本隆一はつねにそうだったし、琉球ゴールデンキングスというチームがそういうチームカルチャーで戦ってきた。

岸本にとって、久しぶりに環境の変化があった。昨季から今季にかけて、沖縄県出身の若手プレーヤーが増えたことだ。20歳の崎濱秀斗、19歳の平良宗龍はそれぞれ沖縄県で生まれ育ち、彼らは生まれた頃から琉球ゴールデンキングスという球団が存在していた世代だ。キングスユースチームで成長してきた佐取龍之介もトップチームの一員に加わった。彼らの存在は、唯一の沖縄県出身選手として期待され続けてきた岸本にどう映っているのか。

「僕から言えるのは、若い選手たち、(崎濱)秀斗や(平良)宗龍、(佐取)龍之介のような彼らが、世代を飛び越えて、同じコートで切磋琢磨できるこの状況が、まずすごく素晴らしいことだと思います。それは自分たちのときにはなかったことです。球団としてのキングスが積み重ねてきたもの、Bリーグとしても積み重ねてきたものの結果、今こういう環境が整っているのはすごく感じています。」

「僕から何か伝えたい事が特にあるわけではないですが、ただ僕のプレーで何か感じてもらえることがあれば嬉しいですし、そして彼らが成長していった先に、良い循環が生まれて、またその次の世代へ、と繋いでいければいいな。まぁ、漠然と思っています」

『伝えたい事は特に無い』と言いながら、聞く者の心に残る言葉を発するのも、また岸本らしい。

だが岸本は、達観して後進に後を譲るような老兵ではない。決してそうではない。昨季の達成感と共に、内に秘める悔しさも決意も語った。

「昨季ファイナルの試合は、本当に贔屓目なしに素晴らしい試合だったと感じました。あの状況下で、キングスとして出せる力は100%に近いくらい出し切った試合でした。試合の結果だけ見れば悔しいんですけど、あのシーズンで出来ることは全てやれたというのが正直な気持ちです」

「今季も自分がチームに貢献できる事といえば例年と大きく変わるところはないと思いますが、個人的にはプレーの正確性をもっと上げていきたいです。僕以外に実力のある仲間が多くいるので、そこにボールを分散して、でもなおかつ自分自身のスタッツとしては安定した数字を残せるようにしたい。今までとは違う貢献の方法を自分の中で模索できたらと思っています。でも、シーズン何があるか分からないので、どんな状況でも、とにかくチームを勝利に導けるように、コート上の結果にこだわって、チームに貢献できるようにしていきたいです」

チームの勝利だけを追い求めつつ、岸本隆一の14年目の挑戦が始まる。

(取材:金谷康平、編集:湧川太陽)

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