激動のシーズンを終えた琉球ゴールデンキングス、安永淳一GMが大事にする『キングスの文化』とは

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「挑戦する気持ち」を大事にしたい

──23-24シーズン終了後、キングスには5人の退団選手がいました。特に田代直希、牧隼利、今村佳太の3選手は在籍年数も長く、中心選手と呼べるような選手でした。彼らが抜けたことで、キングスのファンから心配の声が大きく出ています。長年貢献した選手が抜けたとしても『キングスの文化』を繋いでいくことは出来ますか?

『キングスの文化・カルチャー』はチーム全員で作っていくものなので、誰かがいるからカルチャーが出来た、というものではありません。長年頑張ってくれた彼らのような選手が抜けたからキングスではなくなってしまう、そんな心配はいらないのかなと思います。

 

 

田代選手は大学時代に本当に素晴らしい結果を残しており、あれほどの選手がよく沖縄を選んでくれたと感激させられた逸材でした。しかし、彼が一皮むけて大きく成長するようなタイミングで、何度も大きな怪我があった。彼は一生懸命準備をしていたのに、本当に偶発的な怪我により試合にでることができなかった。不運が重なってしまったと思っています。そして彼はとても深く考えることが出来る人間でもあり、「キングスはこうあるべきです」と意見を伝えてくれる人間でもありました。田代選手とは長年苦楽を共にしてきたからこそ、本当に感謝の気持ちがあります。

同時に、チーム自体も若返らせたいという方針がある中で、田代選手の出番も限られてしまっていました。仮に契約延長しても、彼のプレータイムが無い試合が出てくる可能性がある。でも彼自身の体力・身体を見ていたらまだまだやれる。今後のキャリアを考えて、キングスを離れてもらった方がいいのかもしれないとも感じました。田代直希というひとりの人間としては大好きですが、彼のポジション自体もチーム内で激戦のポジションでもあり、契約オファーしないという判断をしました。

 

 

牧選手も田代選手と同じく、大きく成長できるタイミングで足首の怪我がありました。彼も優れた才能があり、コート上で無双できるような選手です。ただ今のキングスでの役割が確立されることが簡単ではなく、彼にとっては難しいシーズンを過ごしたとも考えました。

また、牧選手は、海外でやってみたいという気持ちが強い選手でもあり、シーズン中にも「海外ってどうなんですか?」というのはよく聞かれていました。牧選手の持っている才能やキャラクターを最大限に引き出せる環境に置くことが大事なのでは、と考えました。牧選手自身も、もっとチャレンジしたい、という考えが非常に強く、環境を変えるのも1つのオプションかもしれないと「次のページをめくりに行ってきます」と爽やかな別れでした。

 

──牧選手は特別指定選手でキングスに加入して、チームとしても中心選手として、それこそ岸本選手と並び立つような選手に成長して欲しいという期待もあったかと思います。そんな選手が退団することに、断腸の思いのような感情はあったのでしょうか?

5年間という期間は、節目としては良いのかなと思います。大器晩成や早熟などプロに入ってからもありますが、5年間あれば選手に与えられた環境でどれくらい伸びるかフィットするかは見えてくるはず。彼は怪我に悩まされてコンディションを上げることがとても大変だったと思うんですが、それも含めてキングスが授かった5年間です。彼は人一倍に物事を考えますし、彼のようなタイプの選手は本当に貴重です。僕としては、彼が新しいページをパッとめくって、彼が持つ明るさ、元気の良さで前に進んでくれればと願います。

 

 

──今村選手はもっとも退団リリースが遅く、複数年契約を解除したという発表もありました。退団までの経緯はどのようなものでしたか?

今村選手には、キングスのエースとしてこれからもプレーして欲しいと考えていたので、複数年契約を結んでいました。その彼が「海外に挑戦したい」という熱い気持ちを、勇気を持って僕に話してくれた時は驚きました。けれど、ショックではなかったです。

人は向上したいという気持ちを失くしてしまうと絶対に向上しない。現状維持は衰退であり、向上心は大切にすべきだと僕は思います。

今村選手は地元である新潟で頭角を現して、遠く離れた沖縄に来てキングスと共に大きな成長を遂げてくれた。日本代表から呼ばれるほどのトップ中のトップの選手に成長しましたが、これで終わりではないという彼の気持ちが、僕には伝わってきました。

契約についてお互いに話し合うなかでも、答えは決まっていたと思います。彼を説得して残りの契約を全うしてもらうのもひとつですが、それが今村佳太のプロ選手人生として正しいかどうかは分からない。成功するにしろ失敗するにしろ、自分自身で選ぶことに重みがあるのではないかと考えました。

 

──ファンからすれば今村選手の退団はショックの大きな出来事で、特に複数年契約を解除してまでの退団となれば「裏切られた」ような気持ちにもなるかと思います。キングスとしても契約と選手の意思とのせめぎ合いだったと思うのですが、そこは選手の意思を尊重したということでしょうか?

100%選手の意思を尊重しました。そして球団としては裏切られたとは感じていません。
彼の決断で契約解除にしましたが、キングスで何かが悪かったとか何かが気に入らないではなく、本当にチャレンジしたいという意思で決断したと思っています。名古屋Dとの契約の内容までは分かりませんが、もし彼が将来海外に挑戦することになれば、僕らとしてはキングスの選手が海外に羽ばたいてくれたと捉えますし、海外での経験や体験を、何らかの形で日本や沖縄に持って帰ってきてくれるかもしれない。そうなれば素晴らしいことです。

今村選手の退団により、キングスのチーム編成に関して誤算が生じたのは確かですが、そこには嬉しい誤算というのも当然あるはずで、それは24-25シーズンが始まってから分かると思います。

 

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この記事を書いた人

地元で開催されるFIBAバスケットボールワールドカップ2023に貢献するべく奮闘中!
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