キングスの「桶さん」から日本の「桶さん」へ 桶谷大 日本代表ヘッドコーチ誕生 沖縄から2028年ロス五輪出場を目指す [2026.02.12]

2026年2月13日(金)、日本バスケットボール協会(JBA)は男子日本代表チーム「アカツキジャパン」 桶谷大ヘッドコーチの就任記者会見を千葉市内の会場で行った。

桶谷大 男子日本代表ヘッドコーチ

桶谷氏は会見の冒頭、「日本のバスケットが世界に知れ渡り、世界で勝てるチームを作っていきたい」と力強く宣言した。前任のトム・ホーバス氏が築き上げた、スピードと3ポイントシュートを主体とする「ホーバス・ジャパン」のアイデンティティを継承しつつ、そこに新たなエッセンスを加え、さらなる高みを目指す。この「継承と進化」のプロセスこそが、新生「桶谷ジャパン」の進むべき航路となる。

桶谷氏は京都府出身。アリゾナ州立大学にコーチ留学後、2005年に当時のbjリーグ 大分ヒートデビルスのアシスタントコーチとしてコーチキャリアをスタート。そのシーズン途中からヘッドコーチに昇格すると、その後はbjリーグやBリーグの様々なチームで、一度も途切れる事なくヘッドコーチを歴任。チーム全員で戦い、強固なディフェンスから勝利を重ねるバスケットボールを信条としており、そのほとんどでチームを成長させ、優勝や昇格を争うプレーオフの舞台まで導いてきた。

現在はBリーグ 琉球ゴールデンキングスで5季目のヘッドコーチを務めており、キングスでは昨季までにBリーグ優勝と天皇杯優勝を1度ずつ、4季連続でBリーグファイナルに出場と、日本人指導者としては突出した成績を収めている。

あわせて読みたい
男子日本代表ヘッドコーチ トム・ホーバス氏が契約終了で退任。後任は琉球ゴールデンキングス 桶谷大HC ... 2月2日(月)、日本バスケットボール協会は、男子日本代表ヘッドコーチのトム・ホーバス氏との契約を終了した事を発表した。 【お知らせ】公益財団法人日本バスケットボー...
目次

戦術のアップグレード ペイントアタックが拓く3ポイントの真価

戦術面における桶谷氏の狙いは、トム・ホーバス前HCが築いた「3ポイント」と「速い展開(トランジション)」というアイデンティティは維持しつつ、さらなるアップデートにある。その核心が「ペイントアタック」の強化だ。

なぜ、ペイント(ゴール下付近)への侵入が不可欠なのか。それは、現代バスケにおいて格上のディフェンスを崩す唯一の解が「収縮」にあるからだ。ペイントを執拗に攻めることで相手ディフェンスを内側に凝縮させ、そこから外へ展開する「インサイド・アウト」を徹底する。これにより、日本の武器である3ポイントシュートは、単なる「打ち合い」ではなく、守備が崩れた後の「ワイドオープンな高確率シュート」へと進化を遂げる。

また、ディフェンスでは「トランジションでスコアさせない」「日本人の勤勉さを活かした起律正しい守備」を戦略の核に据える。

桶谷HC「日本人がやっぱり得意とするこの勤勉さだったり、規律正しさを保ったディフェンスを作り上げたい。ペイントで簡単にスコアさせないようにし、そこからスティールを狙っていくような、規律あるディフェンスを構築したい」

サイズで劣る日本がポゼッションゲームを制するため、リバウンドでハッスルするのは勿論のこと、スティールでターンオーバーを誘発させるディフェンススタイルを考えているという。

NBAの知見を繋ぐ「最強の布陣」と、戦術の翻訳者

新体制のスタッフ編成は、まさに「世界基準」を具現化したものだ。NBAでの指導経験を持つ吉本泰輔氏(NBAデンバー・ナゲッツ傘下GリーグAC)とライアン・リッチマン氏(シーホース三河HC)という、これ以上ないスペシャリストを日本代表アシスタントコーチとして招聘した。

伊藤拓摩強化委員長は、世界レベルのスピードと質に追いつくためには、HC一人の知識だけでなく、各分野の専門家の力を結集させる必要があると強調して、彼らの招聘理由とチーム内での役割について説明してくれた。

伊藤委員長「現代バスケにおいて、HC一人ですべてを網羅するのは困難であるとし、NBAを知る『世界基準』の知識を持つコーチを招集しました。吉本泰輔氏は主にディフェンス担当と考えており、NBAで『ディフェンスの代名詞』とも呼ばれる名将(トム・シボドー氏を示唆)の下で経験を積み、世界レベルの守備構築ノウハウを持っています。ライアン・リッチマン氏は主にオフェンス担当であり、 NBAの経験に加え、Bリーグ(シーホース三河)での指揮経験もあり、日本を知りつつ、選手の個性を活かした多彩なセットプレーを構築できます」

伊藤氏は、桶谷HCの最大の強みを「バランス感覚」と「決断力」にあると評価。スペシャリストである2人のACから専門的な意見を吸い上げ、日本人選手の特性を加味した上で、最終的にチームとして「一番いい選択肢」を選び取る役割を桶谷HCに期待している。

桶谷HCは、2人のACとの関係性について、信頼とリスペクトを込めて語った。

桶谷HCは吉本氏を親しみを込めて「ダイス」と呼ぶ。二人は昔からの仲であり、以前から「いつか一緒に日本代表をやりたい」と語り合っていた間柄だと明かし、ついにその時が来たことを喜び合い、日本人の勤勉さとNBA流のディフェンスエッセンスを融合させることを目指していく。

リッチマン氏とはBリーグで対戦相手として戦ってきた。桶谷HCは、三河で見せる「個性を活かしながらシステムに落とし込むバランスの良いオフェンス」を高く評価しており、その手腕を代表に貸してほしいと願っているとした。

そしてこの布陣に、佐々宜央氏(琉球ゴールデンキングスAHC)が日本代表アドバイザリーコーチとして加わる。佐々氏は、専門特化したコーチ陣が持ち込む高度な戦術用語やコンセプトを、桶谷HCや選手たちへ正確に伝える「戦術的な翻訳者」の役割を担う。琉球ゴールデンキングスでもコンビを組む佐々氏に、桶谷HCも全幅の信頼を寄せる。これまでの日本代表での指導経験が豊富な佐々氏が「補佐役」としてチームにいてくれることの重要性を強調。彼がいることで、指揮官と選手間のコミュニケーションがより円滑に、深くなるとの期待を示した。

兼任は「ネガティブではなく、非常にポジティブ」

日本屈指の「プロ指導者」としての地位を確立した桶谷氏は、満を持しての日本代表ヘッドコーチ就任となる。しかし、桶谷大氏がBリーグの琉球ゴールデンキングスの指揮を執りながら代表HCを務める「兼任体制」について、世間で不安視する声もあったのは事実だ。兼任体制の意図とメリットについて、男子代表強化委員会 部会長 安永淳一氏と伊藤拓摩強化委員長が明確に語ってくれた。

安永氏は兼任について「ネガティブではなく、非常にポジティブなこと」と断言した。週末ごとのBリーグで選手、審判、ファンと対峙し、タイムアウトや駆け引きの判断を繰り返しているため、常に「感覚が研ぎ澄まされている」状態にあることが代表戦でもプラスに働くとした。たしかに激務であることは認めつつも、本人が意欲を持って引き受けた名誉ある挑戦であり、ここで良い結果を残すことができれば、日本人コーチの新たな可能性が広がると期待を寄せた。

伊藤氏は世界的に見てもナショナルチームとクラブチームのHC兼任は珍しくないとし、今回の体制が日本のバスケットボール界全体の協力によって成り立っていることを強調した。今回のコーチングスタッフはほぼ全員がBリーグ等のチームとの兼任である。ワークロード(仕事量)の多さを承知で、「日本のバスケットのために」と快諾したスタッフ陣の熱意を称賛。就任にあたり各クラブへ打診した際、「日本代表が強くならなければBリーグも盛り上がらない」として、全てのクラブが快く承諾したことを明かした。伊藤氏はこれを「日本のバスケ界の明るい未来」と表現し、代表とリーグが一体となって強化を進める体制への自信を見せた。

(左から)安永淳一 強化委員会部会長、桶谷大 HC、伊藤拓摩 強化委員長

48歳のチャレンジャー 「岐路」を支えた家族の言葉

桶谷HCにとって、日本代表監督は小学生の文集に綴った「いつか叶えたい夢」だった。しかし、本人はそのタイミングを「60歳くらいかと思っていた」と振り返る。48歳での大役就任は、想像より遥かに早いチャンスだった。

人生の大きな岐路に立った彼を突き動かしたのは、最も身近な戦友である夫人の言葉だった。

桶谷HC「(妻は)僕がどうしようかなと悩んでいるときに、『あなたの人生なんかチャレンジでしかないんやから、これを受けたほうがいいんじゃないか』と後押しをしてくれました。本当にいつも一緒に戦っている戦友だと思っています」

日本代表として、過去の日本人コーチが成し遂げられなかった景色を見せる。その覚悟は、長年のキャリアで培われた自信と、家族の信頼に裏打ちされている。

2月、沖縄アリーナから始まる「最高の一体感」

新生アカツキジャパンの初陣は、2月末のFIBAワールドカップアジア予選 WINDOW2。舞台は桶谷HCが幾多の歓喜を味わった「聖地」沖縄サントリーアリーナである。この地で中国・韓国を迎え撃つことは、彼にとって宿命めいた恩返しの機会でもある。

桶谷HC「沖縄は本当にスペシャルな場所で、2023年のFIBAワールドカップでは『聖地』と呼ばれました。WINDOW2を勝利するためには、沖縄の皆さん、そしてあの場所に集まっていただける皆さんの『最高の一体感』を出すことが一番大切だと思っています。あの場所で『最高の一体感』を出すためにも、ぜひ応援よろしくお願いします」

「桶谷ジャパン」の航路は、単なる2連戦の勝利を目指すものではない。2028年のロサンゼルス五輪、さらにその次の2032年ブリスベン五輪までを見据えた、中長期戦略の第一歩だ。それぞれの専門家が英知を結集し、一人の「リーダー」がそれを束ねる。日本バスケは今、新しい組織像への脱皮を試みている。

最強のチーム、スタッフ、そしてファンの熱気。それらが融合し、新生アカツキジャパンが『最高の一体感』を見せたとき、私たちは一体どのような新しい景色を目にすることになるのだろうか? 沖縄の青い海に登る「暁」が、その答えを照らし出してくれるはずだ。

(写真:佐藤智彦、文:湧川太陽)

この記事が気に入ったら
フォローしてね!

  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

沖縄バスケットボール情報誌アウトナンバー編集部 │ #琉球ゴールデンキングス 試合レポートなら #OUTNUMBER │ 沖縄県U18、U15、ミニバス情報も発信中です

目次