なぜプロスポーツは「不公平」なドラフトを導入するのか? Bプレミアから読み解く「戦力均衡」の本当の意味

目次

1. はじめに:Bリーグ「B.革新」と、私たちの素朴なギモン

2026年、日本のプロバスケットボールリーグ「B.LEAGUE」は、「B.革新」と名付けられた大規模な変革期に突入します。これは、リーグの事業価値とエンターテインメント性を飛躍的に向上させるための野心的な一手であり、その実現に不可欠なツールとして「ドラフト制度」が新たに導入されます。

リーグは、この新制度の公式な目的を「戦力均衡」の実現にあると説明しています。しかし、そもそも「戦力均衡」とは具体的にどのような状態を指すのでしょうか? そして、前年の成績が悪いチームを優遇するドラフト制度のような、一見「不公平」にも見える仕組みが、なぜリーグ全体をよりエキサイティングにするのでしょうか?

この記事では、Bプレミアの新制度に対して多くの人が抱くこの素朴な疑問を解き明かし、「戦力均衡」という言葉の、より深く、興味深い本当の意味に迫ります

そもそも「戦力均衡」とは何だろう?

Bプレミアの新制度を紹介する公式ページにはこう書かれています。

新しいB.LEAGUEには、これまでに無かったたくさんの制度が設けられ、よりクラブ同士の実力の均衡が均衡するような仕組みが採用されます。

参照:【公式】B.革新 | 2026年からの新制度について | B.LEAGUE(Bリーグ)公式サイト

クラブ間の戦力均衡を進めて、魅力あるゲームを増やすことが目的であるとチェアマンをはじめとするBリーグ関係者は説明します。

「戦力均衡」と聞くと、ビデオゲームのようにチームの全選手レーティングを均一に揃えるような、静的な状態を想像するかもしれません。しかし、プロスポーツリーグにおける戦力均衡は、そのような単純なものではありません。

結論から言えば、プロスポーツにおける「戦力均衡」とは、「戦力の流動化」と表現するのが最も的確です。

目標は、全チームの戦力を完全に同じにすることではありません。むしろ、特定のチームが永遠に勝ち続けることを防ぎ、才能ある選手がチーム間を移動できるダイナミックなシステムを構築すること。これにより、リーグ全体の競争が活性化し、ファンを惹きつけ続けることができるのです。

ドラフト制度とは「戦力均衡」を目的とした「戦力分散」である

では、その「戦力の流動化」を実現するために、ドラフト制度はどのような役割を果たすのでしょうか。ドラフト制度の主な目的は、「戦力分散」です。

Bリーグが採用するのは、前シーズンの成績が低かったチームを優遇する「ウェバー方式」です。これにより、将来有望な新人選手が、戦力補強を最も必要としているチームに加入する可能性が高まります。

具体的には、2028年以降、「ドラフトロッタリー」と呼ばれる抽選が導入されます。この抽選は3つのステップで指名順を決定します。

  • Step 1:まず、ドラフト1位から3位までの指名順を、ポストシーズンに進出できなかった全チームによる「重みづけされた抽選」で決定します。この仕組みでは、前シーズンの成績が悪かったチームほど当選確率が高くなります。例えば、26位でシーズンを終えたチームは、14位のチームよりも格段に高い確率でトップ3指名権を獲得できるのです。
  • Step 2:次に、4位以降の指名順は、Step 1の抽選に漏れたポストシーズン未進出チームに対し、前シーズンの成績が低い順に割り当てられます。
  • Step 3:最後に、ポストシーズン進出チームが、こちらも成績が低い順に指名順を得ます。

なお、制度開始当初の2026年と2027年は、全参加クラブが同じ確率で抽選を行います。ここで重要なのは、このロッタリーは、特定の選手を指名したチーム同士がくじを引くのではなく、事前に「指名する順番」を決めるためのものだという点です。日本プロ野球のドラフト制度とはこの点が明確に異なります。これにより、1位指名権を得たチームは、その年のNo.1有望株を確実に獲得できます。このようにして、リーグに新たに入ってくる才能を、まず下位チームへと「分散」させるのです

第1回 Bプレミアドラフトのロッタリーは2025年12月22日(月)、第1回 Bプレミアドラフトは2026年1月29日(木)です。

参考:【公式】ドラフト制度 | 選手契約・ドラフト | B.革新 | B.LEAGUE(Bリーグ)公式サイト

ドラフトで”分散”させて、FAで”流動化”させる

しかし、ドラフト制度だけでは真の戦力均衡は達成できません。そこで不可欠となるのが、フリーエージェント(FA)制度という第二のピースです。

この二つの制度は、次のような関係にあります。ドラフトがリーグへの「入口」で才能を分散させるのに対し、FA制度は選手が数年後に自らの意思でチームを移籍することを可能にし、リーグの「内部」で才能を循環させます。経営戦略の観点から見れば、これはリーグが選手を共有の「タレントプール」として扱っていることを意味します。個別の「部署(クラブ)」が短期的に才能を囲い込むことよりも、組織全体、つまり「Bリーグ」という共同体の健全性が優先されるという考え方です。ドラフトで各部署に配属された人材が、FAによって部署間を異動する。この絶え間ない循環、つまり選手をリーグ内でグルグル回していくことこそが、長期的な「流動化」を生み出し、戦力均衡へと繋がっていくのです。

ドラフト、FA、サラリーキャップはセット運用

そして、この仕組みを完成させる第三の要素が「サラリーキャップ制度」です。

新リーグ「Bプレミア」では、1クラブが契約する全選手の年俸総額に、上限8億円、下限5億円という枠が設けられます。これは、資金力のあるクラブの際限ない支出を抑制すると同時に、全チームに最低限の戦力投資を義務付け、リーグの競争力の底上げを図るための制度設計です。

特に重要なのが「上限」の存在です。強豪チームは、所属選手が活躍すればするほど、選手の年俸も高騰していきます。やがて年俸総額はサラリーキャップの上限に近づき、すべてのスター選手を抱え続けることが資金的に不可能になります。結果として、チームは主力選手の一部を放出せざるを得なくなり、一つのチームが永続的に強さを維持することは極めて難しくなるのです。

これら3つの制度が一体となって機能することで、本当の「戦力均衡」が実現します。

  • ドラフトが、リーグに入ってくる才能を「分散」させる。
  • FA制度が、その才能をリーグ全体で「流動化」させる。
  • サラリーキャップが、才能が一極集中しないように全体を「均す」

この三位一体の仕組みこそが、リーグの競争力を維持するための設計図なのです。

まとめ:本当の「均衡」がもたらすもの

プロスポーツにおける真の「戦力均衡」とは、全チームが同じ強さになる静的な状態ではありません。それは、ドラフトによる「分散」、FAによる「流動化」、そしてサラリーキャップによって才能の偏りを「均す」という3つの制度が連動することで生まれる、ダイナミックで健全な競争環境そのものを指します

Bリーグがこれから歩むべき道は、単なるルール変更ではありません。それは、個々のクラブの勝利を超え、リーグという「共同体」全体の永続的な繁栄を目指すという、経営哲学の転換です。この壮大な試みが成功するかどうかは、日本のスポーツビジネスの未来を占う試金石となる可能性があります。しかし、ここで一つの疑問が生まれます。はたして「戦力均衡」は、プロスポーツリーグが成功するために、常に必要不可欠な要素なのでしょうか?

次回以降は「戦力均衡」と「プロスポーツリーグの形態」、そして「Bプレミアの問題点」について書いていきます。

(文:湧川太陽)

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この記事を書いた人

地元で開催されるFIBAバスケットボールワールドカップ2023に貢献するべく奮闘中!
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